策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

(術策)「有花堪折直須折」by潜規則之路先生9

「錦衣」

 袁術は部屋に戻りゆっくりと歩き回った、考えながら、待っていた。
 二日前孫策が寿春に戻ってきた。すぐさま謁見を求めてきた。その顔色はあっさりとしたもので受け答えも普通であった。自分の負け戦を語り、叔父に袁術に使者として遣わされ、謝りにきた。
 彼の振る舞いはますます謙ったものになり、袁術は心の中でだんだんいったいこれはどういうことだと理解不能だった。
 彼は手を伸ばして助け起こそうとし、孫策は頭を上げた。眼は漆黒で睫毛は細長く、袁術には気まずく思えた。手を引っ込めるのはもっと体裁が悪いと感じた。
 他の人間はみな後ろに立っており、孫策が跪づいて動かず、この瞬間彼が口の端をつり上げるのを見ることができなかった。それから袁術は彼を助け起こした。

 袁術は袁耀に新酒を与え、孫策を酒に誘うようにした。自分の部屋で空の色を見ながら時間を指折り数えた。やっと立ち上がって我が子のところへ向かう。
 彼は数人の侍衛をを連れ庭を通り過ぎて行った。この頃はとても寒く、夕暮れに寿春でも細かな雪が降った。すでに地上には薄らと積もっていた。足下では柔らかな割れる音がした。
 彼は入口でしばし躊躇した。侍衛たちに廊下で待つように命じ、自分だけ戸を開けて入った。

 酒を飲んだ二人とも寝台の上に座っていた。部屋では火盆と香炉が燃えていた。数人の侍女が控えていたが、袁術は彼女らを下がらせた。
 部屋に満ち満ちた暖かな香気と酒気が彼の顔を直接触れた。刺すようで目が少し痛い。身を包んでいる狐裘もひどく熱くてうんざりした。
 袁耀はすでに酔い潰れ小さな机に腹ばっていた。手には酒杯が倒れて零していた。眠っており意識がない。
 孫策は寝台の片側に寄りかかって、顔はやや赤くなり、謗るような気配の微笑みで迎え、袁術に向かって杯を挙げた。
「袁叔叔、今回の酒には、また何か?」

 袁術は絶句した。孫策はハハと大笑した。頭を上げて杯の酒を飲み干し、振り返って彼を見つめた。
「これはわたしが無礼でした。袁叔叔におわびします」
 彼はぐらぐらしながら寝台から降りてきて、あっと声を上げるとふらりと転びそうになった。袁術孫策が倒れ込むのにあと一歩及ばず、腕の中に抱き留めて、一緒に転がった。
 
 孫策は彼の衣服の間に顔を埋めて、くくくと笑った。袁術は彼が抵抗しないのをみて、口もとに手を伸ばして、指を鮮やかな紅で柔らかい唇に触れた。
 半ば酔った少年は目を細め、笑いながら小さな白い歯を見せた。
「叔叔は我が子をつかってわたしに酒を飲ませて、下半身のことも我が子に役目をつとめさせようとでもおっしゃるので?」

 彼は袁術を押し退け、立ち上がって衣服を整えようと、寝台に戻った。袁術はこのとき、彼が裸足なのに気づいた。靴下も穿いていない。孫策は寝台に座り、裾から裸足を不安げにぶらぶらさせていた。
 今日着ている服は十分華美で、くすんだ緑の生地に銀糸で鳥の羽を複雑に刺繍してあり、細かくて職人気質に流れていないので、袁術が見ても洗練されていた。洗練された様子はあたかも孫家の一族のような風格ではなかった。
 彼の腰には玉佩が掛かっており、白玉でできた雲と水花の魚の形である。
 
 袁術は人を呼んできて、侍女達には袁耀を助け起こして運ばせた。孫策は机にもたれかかり、手で肘を突いて、微笑みながら見ていた。
 室内がまた静かになると、袁術は咳払いをひとつした。我が子が座っていた位置に座り、孫策に酒を注いだ。
 孫策は顎に手をつきながら、目を上げた。
「袁叔はまだわたしを怒っていますか?」
 袁術は少し考えて、酒を口に含み、やっと言った。
「わしはそなたを責めておらぬ。袁叔こそ……謝らねばならぬやもしれぬ」

 孫策は自分の目の前の酒器を取り上げ、袁術の杯に細い流れをつくるのを見ていた。そして、寝台から飛び下り、部屋を歩き回り戻ってきた。
「わたしは本来、袁叔に謝りにきたのです」

 彼は見たところ以前より身長が伸び、肩幅も広く足も長くなり、もはや子どもの体型ではなくなっていた。
 その身にまとう錦の衣も見た目から重厚で、色合いも落ち着いていて、彼が着るととても華麗で端正だった。
 だが、この華麗で端正なのは一本の腰帯で結ばれているだけであった。
 孫策が衣服を脱ぐと、その柔らかで重厚な衣装は流れる水のように肩から滑り落ちた。足下にひとつ落ち着いた緑のきれいな水たまりができていた。あの白玉の魚も浮いていた。

「現在は、袁叔叔はおおよそを見たでしょう。まだ必要でしょうか?」