策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

(術策)「有花堪折直須折」by潜規則之路先生35

「加冠」

 周瑜は目を閉じて、しばらく考えた。
「わたしはもちろん同意しないことはないよ。でもわたしは年長者じゃないし、徳もないし……」
 孫策周瑜の話を遮った。
「それに拘る必要はない」
 二人は指を絡め合った。手のひらには汗が滲み湿ってきた。
「当時、おまえが寿春に訪ねてきて、初めて会った、オレに何と言って来たんだった?」
 周瑜は笑い出した。
「わたしはまじめすぎた。どんな話でもきみにしてきた」
 孫策は指を離し、周瑜のややつり上がった目尻をなぞった。
「そんなちょっとの年がどうした。自分から王佐の才を誇り、必ずやいつか功を立て偉業をなし、万人の上を出る……オレと同じく無茶苦茶なことを言っていた」

 周瑜は言う。
「それから、きみの孫家の一族がいないよ。礼が成り立たないのでは」
 孫策は立ち上がって帷をめくった。
「伯海入ってこい。その他の者は用意をしろ」

 兪河は孫策の前に立ち、黙って待っていた。
 彼は孫家の親子に長年随ってきた。全身全霊で仕えてきた。
 孫策は言う。
「伯海、おまえは姓氏を変えて、今から我が孫家の人となるか?」

 兪河はまったく迷わず跪いて礼をした。
「孫河は肝脳地に塗れても、小将軍に従います。死すとも悔いはありません」

 必要なものはすでに準備してあった。孫策は孫河の着替えを手伝い、笑いながら、周瑜に言った。
「朝に遅れたのは、こっそりこれらの物を運んできたからだ。ばれるのを恐れて、何かが足りなくないか、何度も調べてから出発したんだ」
 孫河は黒い冠を捧げて周瑜の手に渡した。
 孫策はつやのない黒い深衣を着て、そこに座っていた。顔を上げて、まじめに周瑜をみつめていた。
 それは周瑜孫策と知り合って数年来、初めてまじめに感じた。彼はついに自分の先を一歩進んで成人となったのだ。

 白衣に着替え、皮の冠を被った。
 最後の一つは、赤と黒の二色の絹服と礼冠だった。
 周瑜孫策のために顎の下で紐を結んであげた。指先で濃く黒い眉をなぞった。
「孫伯符、礼は成った」

 孫河は米酒を準備し、三人で乾杯した。孫策は小声で言った。
「これでよし。伯海は出て行っていいぞ。夜の番を頼む。今夜は誰も入れるな」

 孫河は命を受け、振り返るときに、目の端に光るものがあった。軽い帷はすぐに元に戻された。
 彼ら二人は寝台の上をごろごろと転がった。手脚は錦織の布団の中に巻き込んだ。
 周瑜は笑った。
「伯符、いまさっきわたしは間違ったよ。礼はまだ終わっていない」

 孫策は眉をひそめた。
「まだなにか?」
 周瑜は彼を起こし、手を伸ばして腰の帯を解いた。
「まだ妨げる物は、全部脱いで」

 衣服を脱がせるのに、周瑜の手はごくゆっくりで、優しい。
 まるでその荘重な衣冠を破くのを恐れるかのように。
 かれの手指は細長く白い、琴の上を優美になでるように落ち着いていた。

 孫策は前に屈み、彼の唇にそっと触れた。
 この口づけはこんなにしなやかで、柔らかく、すっと去った。周瑜の唇にはうっすら酒の香りが残った。
 優しく慎重な動きでまるで孫策らしくなかった。
 彼の手指はそっと周瑜の生え際をなぞりあげ、整えられたもみあげを撫で、小声で言った。
「おまえの心臓の跳ねる音がすごい。おまえをオレが焦らしているみたいだ」

 ついに誠実に相見える
 上巳の節の禊を行い、川の中で身体は清潔につややかに洗われている。髪からは蘭草と流水の香りがした。
 孫策は裸の胸に一条のねじれた傷跡があった。今では目に触れて驚くほどではなかった。指で触れると、微かな隆起があった。
 周瑜の指の腹には傷ついた皮膚をゆっくり摩った。
「こんな傷を負っていたなんて……」

 孫策は口の端に笑いを含んでいた。
「何を恐れるか。傷なんて、顔にでもあるまいし」
 周瑜は突然俯いた。話している間の胸の振動がぴったり肌が張り付いているので伝わってきた。
「きみはわざとこんな話をしているの?わたしが怒るのが恐くないの?」
 孫策の声音は小声で囁いた。
「じゃあおまえは今怒っているのか?」
 周瑜は春の水のような眼は、白黒はっきりとしていて、温和で秀麗だった。ただ今は多情な眼から情感がほとばしっていた。言葉で語るより大声ではっきりと語っていた。今このときは磐石の如く硬く、火焔のように燃えていた。
 周瑜は下にすべりおり、唇が傷跡に張り付き、暖かい舌がなぞり、突然その上を一口噛んだ。
 その一口はきつく噛んでいなかったが、かえって効果があった。
 周瑜孫策が突然跳ねさせた腰を抑えた。憎々しげに言った。
「今夜きみはわたしに謝ってもらうよ」



 周瑜は立ち上がった。孫策は寝台に伏せて、臂で支えながら彼が髪を結い服を着るのを見ていた。にっこりと笑っていた。
「叔父君にごまかす工夫は、深くて測りかねるな」
 周瑜はため息をついた。
「周家と袁家は代々付き合いがあり、もちろんそんな簡単に態度を変えるわけにはいかないし、その上」
 彼はすでに上着を着ていたが、また孫策の側に座っていた。
「いまはまだきみがいつ抜け出せるかわからない。先に盧江を攻め、一芝居うち、何度もしているうちに、袁術がきみに対して忌みはばかるようにはさせたくない」
 孫策の眼は光った。
「素晴らしく振る舞うのもできない。彼がオレを用心するのも悪くない。オレを重用するのも悪くない。すべて面倒だ。ひどく振る舞うこともできない。人のいい口実になる。オレに兵を全て集めさせる。しかし、陸康も特別に困難で、あんなに長くかかった」

 周瑜は少し考えた。
「当初の計画は、まだ継続可能?」
 孫策は微笑んだ。
「心配いらない。三、五カ月間以上はかからない。おまえは丹楊でオレをまっていろ」
 周瑜孫策と指を絡めた。十指が握り合う。
「きみはすでに把握してる?彼はきみを手放せると?」
 孫策は起き上がって座り、彼と見つめ合い、深く目の中を覗き込んだ。
「オレに考えがある」