「明珠」
呉夫人は自ら孫策の旅装の用意をしていた。その目には涙があった。
夫はすでに亡く、長男はまだ二十歳に満たない。
彼女は忍びず孫策の髪を撫でた。
「このような礼物が袁叔叔の目に留まるかわからないけれど」
孫策は彼女に伏して頭を下げた。
「母上ご心配いりません。わたしは尽力いたします」
しかし、彼女の心配はここに止まることをしらない。
孫策は馬に騎乗し、孫権は馬車に乗って同行した。
父上が亡くなってから、孫権の兄に対する依頼心は前以上に昇った。いつでもずっと付き纏い、遠くに離れることもできず、毎日会っていなければ、夜に安心して眠ることもできなかった。
孫権は幼いけれど、とても賢く、またかつては父兄と一緒に軍中にいたので、孫策は少し考えて、連れて行くことにした。
小さな権児は車に乗り、同じく車には呉の名産である絹織物や、母上が嫁いで来たときに持ってきた金の首飾り、数株の不思議な色をした鮮やかな珊瑚樹が載せてあった。
また四角い漆の箱があり、外側は紅い錦織の絹布で包まれていた。
馬車で長い道のりでつまらなくなり、空はだんだん暗くなり、本を読むこともできなくなり、孫権は好奇心に勝てず、その箱を開けてみた。
馬車の中が柔らかな光で満たされ、孫権はびっくりした。
孫策が来て、二、三日袁術はまだ会わなかった。
彼に顔色と威儀を示してからのほうが、少しは子どもに大人しくすることを学ばせられる。その上、孫策がきたのには、父の元部下を取り返そうと必ずするからである。これは絶対に許さない。
礼物が先に送られてきた。袁術はあの珠を捏ねていると、腹心の細作が小声で話した。
「これは十八路の諸侯が打倒董卓の会盟をしたとき、西涼の馬氏が孫家に贈ったものです。西域の九転明珠です」
袁術がだんまりを決めて何もしゃべらずにいると、なにか考えているようでもあり、また一言付け加えた。
「孫家もこのようなものを取り出してきて殿に献上するとは、本当に行き詰まってますな」
袁術は心動かされることがあったようだ。
孫策は数日待ったが、袁術には会えず、袁耀の方が酒でも飲もうと声をかけてきた。
白露酒は温かく熱をもち、味は甘く、十分美味しい。後から結構きく。いわんや薬を混ぜたのでは。
袁術が人を連れてきたときには、すでに二人は酔っ払って寝ていた。
侍女を残して袁耀の面倒を見させ、侍衛達に孫策を抱えさせて、奥の間に行った。
寝台に寝かせられたころ、少年の赤い顔は冷たい絹地に触れていた。そっと「ん」と一声あげる。彼が目を開くと目の前には星の光が広がったり、集まったり、散って暗くなったりした。
自分は密閉された暗く甘い香りのする部屋に閉じ込められたようだ。体は水の中のようで浮いたり沈んだりする。
それから、誰かが彼の頭を掬い起こし、冷たい銀碗を口元に近づけた。彼は喘ぎ、力を入れて相手の袖をつかんだ。
「袁叔?」
袁術は手で彼の首を撫でながら言った。
「さぁこれを飲みなさい。飲めば、苦しくなくなる」
袁術は彼が菖蒲の煮詰めた汁を飲み干すのを見ると、内心得意になった。そして少し焦る。
まず白露酒の中に何日も合歓を浸しておいた。室内には龍涎香を焚いている。
袁術は好色で、これを恥とも思わず、十分にこの道に精通していることを誇りさえしていた。
徹底的に酔わせたもの、または迷い込んだ幼い子は難しくない。ただ相手は無知覚になり、まったく反応がなくなる。珠玉のような体をものにするのは、またどれほど興味の湧くことか。
彼はさらに良い方法を知っていた。
懐の少年はついにだんだんと柔らかくなってきた。広がった瞳も寝台の上にぶら下がる珠の光を見つめ、黒水晶のようにきらきらと光った。彼は袁術の袖を離し、自分の襟元を引き裂き始めた。乱れて順序を得ていなかった。
袁術の手はその小さな喉仏を覆っていた。上下にごろごろと動く感じがする。
焼けるように熱い皮膚の上には細かな汗の粒が見え始めていた。
袁術はすでに長いこと自ら他人の服を脱がせることをしていなかった。
女達は彼の目の前ではひどく大人しく振る舞わないことなどなかった。本当か嘘かは別として、自分で服を脱ぐのは趣があると言うものだ。
この時やっと彼は興奮してきた。
少年の肌が少しずつ上着と中衣から剥き出されてきて、あたかもまだ咲かない硬い蕾から、歓喜、罪悪、意外にも素晴らしいものが現れ過ぎて全てを目に収めることができない。
花は咲いたら摘み取るもの。
馬鹿はただ待つ。