策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よぼよぼ漢語 策瑜同人 nashichin先生 『蜜月』七

 傾心 上

 おおよそ蜜月のスイーツのメニュー表をめくったことのある客ならみんな知っていることだが、各種コーヒー、ミルクティーフルーツティーなどのドリンク類の最後に特別なこともなさそうな、だが非常に特殊なイングランドローズティーというセットがある。特徴がないといったのは、そのお茶の原料そのものにはふしぎなところもなく、この二年多くのスイーツ店ではみなロンドンの雰囲気を漂わせるローズティーを出している。非常に特殊と言ったのは、それはこのお茶を飲みたければ、必ず愛する人を連れてきて、相手の手自らお茶を淹れて貰うのである。
 それゆえ、彼女いない歴二十四年間の不運な編集者陸遜はこの四回目の蜜月の訪問で、ひどくかわいそうに周瑜が清潔なテーブルクロスの上には美しい茶器を並べるのを見ながら「独身とは公害だ」とひとり思っていた。
「ほら、この茶葉の香りはどうかかいでみて」
 ひとつのきれいなお茶の缶を開けて、周瑜はひとさじ茶葉をすくって陸遜の手のひらにのせてあげた。
「とてもいい匂いだろう?」
 手にのせられた暗紅色の茶葉を、陸遜は鼻の下に持っていく前に、もう濃厚な薔薇の香りがしていた。薔薇の花が咲いたときの爽やかな香りとは違い、すでにお茶に加工された薔薇の花弁の香りはさらに鮮烈で、思わず考えてしまった――薔薇の花咲く摘み取られたときの最も美しい姿や色が全てこの濃厚な香りとなって細かな茶葉となっているのではないかと。
「いい香りだ!」
 目を閉じるといつも人に「ロマン」を連想させる薔薇の香りが感じられる。陸遜は自分の目の前の周瑜がまた別の美しい精巧なの缶から茶葉を取り出し、ローズティーを淹れていることに気付かずに座っていた。
「香りがいいのは当然」
 やや赤みを帯びた茶を黒い茶器に注いでゆく。周瑜はまったく陸遜にも味わうことを許すつもりはなかった。
「飲みたかったら、今度恋人を連れてくればいいのさ、男女は問わずね」
「瑜兄さんは本当に……」
 陸遜周瑜が茶を淹れるとき微笑みながらも注意深く漆黒のカップを見つめているのに気づいた。突然なにゆえなくお茶の中に映る周瑜の顔を見てみたいと思った。いま自分が見たのは揶揄い好きな瑜兄さんとは違うのかどうかわからないが、いつもより優しい目元をしているのでは?

 

 十八歳のあの年、違う人生の進路を選んだ後、周瑜孫策は各自の生活がだんだん遠くなってきた。大学入試も終わり、名門の化学の大学に合格して孫策は市内の中心部から遠い学生寮に引っ越した。進学を諦め有名な造型専門会社に入社した周瑜は市内の仕事場所から遠くない中心部にワンルームを借りた。二人が六年間住んだ「勉強部屋」は再び六年前の静けさを取り戻した。引っ越しの日、周瑜の母親も想いがこみ上げてきた。
「二人の息子も、それぞれの未来に向かっていくのね」
 十九歳の年、大学に入りたての孫策は群れ集う女学生に大わらわになっていた。一方先輩にアレコレ呼びつけられる見習いとなった周瑜は好みのうるさい顧客の対応に忙しかった。
 二十歳の年、早々に大学の学生会会長になった孫策はますます難しくなる学業に集中しただけでなく、大学内の各事務処理にも時間を割かねばならなかった。だんだん自分の顧客ができてきた周瑜はすでに通常の造型デザインに自信をもち、また一流どころのパーティーにイメージスタイリストとして関わっていた。
 二十一歳の年、学生会での著しい貢献と同様に一目置かれる成績があり、孫策は一年後これからもさらに研究を深めていくのか、それとも社会人として就職するのか考え始めていた。豪華な展示会で成功し、一流スタイリストとして名をはせた周瑜は未来についてあまり多くを考えなかった。それは彼がすでに長いこと会社に所属して仕事をしようとは思っていなかった。
 二十二歳の年、孫策は順調に修士と進み、周瑜は会社の主席スタイリストとなっていた。
 大学卒業後のあの夏、大学の寮から引っ越した孫策周瑜のいる市の中心地に小さな部屋を借りた。それは広くはないが周瑜のインテリアコーディネートで十分温かく馨しい部屋となっていた。孫策はその実まったく知らないわけではなかった。大学のこの四年、期末テストの時期、学生会の活動を除けば、彼は週末にやって来ては二日間を過ごしていた。だんだん忙しくなる周瑜も週末の約束は全てキャンセルして会っていた。二人は広いベッドの上で横たわり、たまには長時間何も言わずに、黙って相手の目を見て抱き合い、一緒に笑い出して止まらないこともあった。
 スタイリストの仕事をしていく上で、各種の様々な一流人とのおつき合いをしていかねばならなくなってきた。周瑜は幼い頃からつき合い上手であったから、今や主席スタイリストとしての誉れもあり、彼は仕事に余裕があるときには多くの名家の貴公子、お嬢様、スターから贈り物を貰った。あるときには暗号パスを書いた銀行のカード、あるときは高価なおいしい特別なチョコレートだった。周瑜はそれらを壁の隅の戸棚にしまい込み、仕事中に各種の茶葉を揃えて顧客たちを招いた。
 孫策はある晩、薄着で周瑜の会社のビルの下をゆっくり歩いていた。ほとんど毎日残業する周瑜を待って一緒に帰ろうとしていた。
 だがこの夏ずっと、彼は一度も周瑜を迎えることはなかった。それは会社全体が電気を落として閉店した後、周瑜の仕事部屋は依然として明るく、明るい窓の下には主を待つ白いオープンカーがあった。
 一度、夜中に暑さも冷めたバルコニーに座ってタバコを吸っていた孫策はまたあの見慣れた白いオープンカーを見た。周瑜が助手席から出てきて、さよならを言うときには昔からの知り合いみたいに運転する青年に手を振って微笑んでいた。
 白いオープンカーを運転していたのは最近芸能界で人気上昇中の郭嘉だった。この人は数多の女性スターと浮名を流し、また噂によるときれいな少年にも興味があるとか。七月初め、新しいアルバムを制作し始めたばかりで、スタイリストには相当金を惜しまない郭嘉はあの目立つ白のオープンカーを運転して会社を訪ね、周瑜に自分のスタイリストの全権を指名した。
「ほんとうに美しい人だなぁ」
 右手で周瑜のあごを持ち上げ、郭嘉は初めて周瑜と出会ったときすぐに仕事場中を埋めるほどの薔薇を贈ってきた。
「ありがとう郭さん」
 多くの一流世界の遊び人を見てきて、周瑜はこの人が自分よりたった四つ上だが、一挙手一投足が成熟した男性で、立派でハンサムな青年そのものに見えた。
「初めまして、かわいこちゃんなにか飲むものをくれないか?」
 仕事場のドアを閉め、郭嘉はドアの側のバーカウンターに置いてある十数個の美しい茶葉の缶を見つけた。
「郭さんお好きなのを選んでください。フルーツティーもあるし、プーアル茶……」
 話が終わる前に、周瑜は温かな感触を唇から感じた。郭嘉のキスは孫策とは違い、前者は軽薄だがうっとりさせ、後者は情がこもっているが未熟だった。
 ほんの少しで終わったキスの後、郭嘉はちょっと周瑜が失神することを期待していた。茶葉を選ぶつもりもなく艶やかな薔薇を手に取った。
「かわいこちゃん、わたしにローズティーを淹れてくれないか」
「いいですよ」
 薔薇の花弁を一つ一つ剥がすと、奥の花芯だけが残った。周瑜は優雅な手は赤いシャツに包まれていてさらに白く嫋やかに見えた。
「このきれいな手が、わたしのためにいろんなデザインを生み出してくれるのか」
 何のこともないように周瑜の左手を握りながら、郭嘉は彼が右手で慣れた手つきでお湯を薔薇の花心を入れた茶器に注ぐのを見ていた。
「おーかわいこちゃんの手は器用だなあ」
「このお茶はローズミルクティーといいます。郭さんのご希望のローズティーよりもさらに甘く香りがよいです」
 落ち着いた様子で左手を郭嘉の手の中から抜き出した。周瑜はローズティーの中に半分冷たい牛乳を無色のガラスカップに注いだ。「味わってみてください。郭さん」
「うん~かわいこちゃんはほんとうに優しいな」
 ガラスのカップを取らず、郭嘉周瑜の握ったカップの残りのローズミルクティーを飲み干してしまった。
「郭さんが気に入ったならかまいません」
 魅惑的な姿勢で周瑜は落ち着いていた。
「それでは、仕事の話をしましょうか?」
「ハハ、さすが首席スタイリストさんだ」
 気ままに頭を周瑜の肩に載せ、郭嘉のこの時の表情はまるで天真爛漫な子どものようだった。
「でもね、わたしの賢いかわいこちゃん、きみはわたし郭嘉が今日来た目的をわからないわけではないだろう?」
「わたしは力を尽くすだけです」
 最近一年、いつも社会人としてとしてのつき合いの場で裏方から出没するようになった周瑜はいつも客から勝手に「美人さん」とか呼ばれてきた。この呼び方は、敢えて訂正しようともしなかったが、受け入れるという意味でもない。
 その初めての仕事場での出会いから、郭嘉は頻繁に周瑜を誘った。話題は造型の話からだんだん人生や音楽へと変わったのにのみならず、二人が会う場所も会社から高級レストランや社交クラブへと変わった。