策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よぼよぼ漢語 策瑜同人 nashichin先生 『蜜月』五

 繽紛 上

 土曜日の蜜月は、さまざまな客達が続々と訪れ、陸遜はカウンターの前に立ち、カウンターとテーブルを絶えず行き交う孫尚香、忙しくミルクティーを淹れながらケーキを作る周瑜を見て、今日は帰ろうか、それとも残って手伝おうか迷っていた。
「おい――このチョコレートケーキを悪いが七番のテーブルに運んでくれないか」
 肩を叩かれ、気がついた陸遜は初めて蜜月に来たときに見かけた焦げ茶色の服の青年が役人ぽい口調と笑顔で一皿のケーキを渡してきた。
「ありがとうな」
「いいですよ」
 皿を受け取り、陸遜は青年が孫尚香の手の中から新しいメニューを取り上げ、またカウンターの中へと入っていったのを見た。こっそり思った。
(瑜兄さんとお似合いでは無さそうなところは、この孫策は笑ってもぶっきらぼうなところだな)
 夜八時、蜜月は閉店した後、周瑜は雰囲気作りのための暖色の壁のライトを消した。カウンターの上には突然白熱灯の明かりがつけられ、半日疲れ切った陸遜はいささか不調だった。
「遜くんは大学を卒業して何年も経っていないんだろう?」
 自らの手でいちご、木イチゴ、マンゴーとやや派手な飾り付けをされたプリンを差し出し、周瑜はゆっくりと話題に入った。
「ぼくは二十四です。卒業して二年あまりです」
 三回目の蜜月への訪問は、客人達が皆帰った後に陸遜はリラックスしてカウンターのスツールに座った。以前の二度の訪問より堅苦しさはなく、まるで周瑜の古い知り合いのようだった。あるいは、孫尚香の言うように、客はみな蜜月の友になるのかもしれない。
「そうなの?二十四でまじめに仕事しているのか、それは本当に素晴らしい」
 陸遜の方を見ずに、周瑜は独りで呟きながら、いちごのついたプリンをすくった。
「瑜兄さん自分でやりますよ」
 慌ててスプーンを受け取り、陸遜はいつも流行の服装をしている周瑜を見つめた。彼と孫策が二十四だった頃の様子は思いつかなかった。
「わたしはずっと思っていたんだ。成功あるいは失敗した二十四歳はみんなぼんやりと十八歳に決定したことに原因があるってね」
 ちらりと陸遜がいちごプリンを味わって満足そうな顔をしているのを見て、周瑜はこっそりと彼の顔に近づいた。
「あごについているよ、ふふ」
「あ……」
 突然周瑜が耳元で温かく湿り気のある息と淡い香水の香りを漂わせたのを感じて、大学四年生になっても女子学生と付き合ったことのなかった陸遜はすぐに顔を紅くした。
「その……瑜兄さん……今の瑜兄さんは十八歳で決意したものなの?」
「はは?いまのわたし?今遜くんの顔を紅くしたわたしかい?」
 「遜くんが顔を紅くするのは予想のうち」といった表情で、周瑜はますますふざけた。
「そうじゃなくて……わたしが言いたいのは……十八歳の決定が二十四歳に影響するとはどういうことなのかって?」
 腰をまっすぐにして、陸遜は慌ただしく水を流し込み、顔の赤みはしばらくは消えなかったが、少なくとも言葉づかいは落ち着いた。
「わたしかぁ」
 ちらと陸遜の目の前のフルーツプリンを眺めて、周瑜は思ったところを述べた。
「このプリンと同じく、調和もなく、雑然として、だが綺麗に入り乱れていて……美味しい」

 十七歳の最後の一週間、高校三年生の学業はしばしば人生について周瑜に無理やり考えさせるようになった。
(この一年を我慢して、未来の四年にきっと光明があるだろうか?もし大学もずっと辛かったら、そんなに歯を食いしばって四年持ちこたえて、さらに遠い未来になにがあるだろうか?)
「十八歳の自分は、どんな感じなんだろう?」
 疲れた目を擦り、机の上にうつ伏せた周瑜はそばのスマートフォンを取り上げた。
「もう十二時か、もういいや、明日朝早く起きてやろう」
 散らばった化学の模擬テストの答案を片付け、周瑜孫策の寝室のスタンドライトを消して客間に行った。
 客間には机の前で赤い髪の毛の青年が素早く計算していた。周瑜はそっと彼の後ろにまわり、彼の三つもピアスを付けている左耳越しに、彼の最後に解いている化学の答案を見た。
「終わった?一緒にシャワー浴びないか?」
 左手で周瑜の首に手をかけ、振り返ってそっと抱き締めている人の耳たぶを咬んだ。孫策周瑜のこっそりとした自分の後ろへの出現も意外ではなかったようだ。
「時間を無駄にする……きみと一緒じゃ少しも眠れない」
 孫策の肩に支えられながら、周瑜はみっちりと字の書かれた答案を拾い上げた。
「わたしは明日も早起きしないと、化学が終わってない……さもないと……」
「自分でやれよ」
 急に周瑜の腕をつかみ、自分の答案をやすやすと取り上げた。孫策は小狡い笑みを浮かべた。
「それとも、オレが今晩教えようか?」
「……自分で早起きしてやった方がマシ」
 孫策の力強い手から抜け出して、周瑜はまっすぐ浴室に向かった。ドアを閉めるときにわざと鍵を掛けた。
 シャーシャーと流水の音の中、周瑜は二年前の自分が怪我をした時のことを思い出していた。
 体に塗る薬のクリームは水に濡らすことができないので、周瑜はシャワーを浴びることができなかった。さらに髪を洗うこともできなかった。いつも誰かの介護を必要とする虚弱な周瑜は、自分の責任を感じてもうふたたび外にケンカしに行くこともなくなった孫策が毎日注意深く周瑜の体をふき清め、周瑜の寝室に運んだ。
 二人とも許すとも言わなかったし、二人とも付き合うとも言わなかった。突然二年間冷戦していた二人がこんなに静かに一緒に横たわっていた。あるとき孫策周瑜の傷を避けてそっと自分の腕枕で眠らせた。またあるときは周瑜は夜中目覚めると孫策の懐にもぐりこんでいた。二年間の冷戦がまるでなかったかのようで、ケンカに行かなくなった孫策は人生で暴力的な面が少し減ったし、人見知りする周瑜も少しは頭が冴えて疎遠な感じがなくなった。
 周瑜の傷がよくなった後、孫策も自分の部屋に戻ることはなかった。二人は両親に黙って孫策の寝室を共同の勉強部屋に改造して、勉強は孫策の寝室でする、寝るのは周瑜の寝室でと約束して決めた。しかし、高三になった後、勉強がますます負担になり、たとえ孫策でももはや授業をさぼったりケンカをすることは少なくなっていた。二人は二人で一緒にいては集中して宿題もできず、夜になっても終わらなかった。
 シャワーを止めると、周瑜は客間で孫策が椅子を動かす音が聞こえた。数ヶ月前、孫策は自分の机を寝室から客間へ移動し、まじめな顔をして言ったものだ。「お前がオレの勉強の効率に大いに影響するんだ」周瑜はわかった。孫策がこうも自分の能力精力を費やしても足りないことを。高二の後、まだ奇抜な格好を好んでいたが、孫策は明らかに学習に力を入れていた。各科目の成績も基本トップのほうにあり、周瑜は外国語は非常に良かったものの、理科系は予想外にひどかった。
 周瑜は思った。自分と孫策は義兄弟の契りを結んでからだんだんと同居する恋人にどうも順調に変わってきていると。それは誰も愛とは言わないし、冷戦もあったし、大げんかもしたし、お互いにムカついたあとに自然と一緒に寝るようになった。愛とは言わなくても幼い頃から一つのベッドでごろ寝するのは子どもの暗黙の了解では? 
「オレの順番だな、小瑜児」
 浴室のドアを開けると、周瑜が一歩外に出ると孫策はすでに服を脱いでいて、あらわになった筋肉質の腹に抱き締められた。
「明日お前は早起きする必要はない。お前のやり残した化学の問題はオレがすでにお前の考えたとおりに下書きしておいた。行って見てみろ、わからなかったら後でオレに聞け」
「……孫策
 頭をぐっと孫策の肩に押しつけ、周瑜はいかんともしがたく指をこつそりと彼のだんだん貼り付いてくるへそを突いた。
「うん?」
 右手を伸ばしてすぐさま奇襲した周瑜の指を握りしめた。孫策は何も知らないと言った純真無垢な顔つきになった。
「汚いんじゃないのか?こうやって抱き締めたら洗ったのが無駄になるんじゃないか?」
 眉をひそめて目の前のハンサムな顔に向けた。熱い湯を浴びてリラックスした周瑜の話し方はややだるそうだった。
「じゃあもう一回洗わなきゃな?」
 後ろ手にドアを閉めて、孫策はシャワーをひねった。
 白く霞む熱気が二人の体のまわりから立ち上り、孫策周瑜のあれこれとした多くもない衣服を脱がせるに任せた。周瑜は突然気づいた。明日どうも早起きすることなど無理なことに。
「十八歳がどんなものか、十八歳になってから考えよう」