策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よぼよぼ漢語 策瑜同人 nashichin先生 『蜜月』十三

感謝 下

子どもにとっては、二ヶ月の夏休みは週末と同様にあっという間に消えてしまった。四歳でまだ学校に閉じ込められることのない孫尚香は、この二日は三年生の孫権と同じように辛かった――何でもできる大兄ちゃんと小瑜児お兄ちゃんがもうすぐ家に帰って学校に戻ってしまうのだ。
 夜、布団に横たわっても眠れない孫尚香は木製のベッドの柱を叩いた。
「お兄ちゃん、寝ちゃった? 」
「まだだ、どうした?」
 二人のお兄ちゃんがもうすぐ自分の側から離れていってしまうと思うと、眠れないのは孫尚香だけではなかった。
「お兄ちゃん、まだ小瑜児お兄ちゃんのことが嫌いなの?」
 上の段から降りてきて、周瑜の贈ったピンクのパジャマを着た孫尚香孫権と並んで横たわった。
「ぼく……ぼくは小瑜児お兄ちゃんが大好きだ、もう嫌いじゃないよ」
 恥ずかしそうに孫尚香に背を向け、孫権はかつて周瑜を嫌ったことを悔いて居たたまれなかった。
「大兄ちゃんよりも大好き?」
 孫権の肩にくっつき、孫尚香はしつこく聞いていた。
「違ってたっていいだろ!」
 孫尚香にじっと見られて怒りだした孫権は突然座りだし逆に聞いてきた。
「それじゃあおまえはどっちが好きなんだ?」
「どっちも大好きよ!」
 口を尖らせ、孫尚香はまた何か考えて言った。
「でも大兄ちゃんは永遠に大兄ちゃんだわ。小瑜児お兄ちゃんは違うの、香ちゃんが大きくなったら、きっと小瑜児お兄ちゃんのお嫁さんになるわ」
「おまえよく考えつくな!」
 軽く孫尚香はげんこつを喰らった。孫権は大人ぶってみせた。
「小瑜児お兄ちゃんはぼくのだぞ!」
「お兄ちゃんは男だもの!」
 幼くしてすでに男女の区別がわかっていた孫尚香は不思議そうな顔をした。
「男がどうしたっていうんだ!」
 潜在的に静かに二人の「ラブラブなかよしこよし」のお兄ちゃんたちの影響を深く受け、孫権は自分が男であることも気にしなかった。
「ぼくたちで明日一緒に小瑜児お兄ちゃんに告白しよう、どっちが選ばれるか!」
「告白、告白!」
 素早く木のはしごで上の段に上り布団に入った。挑戦を受けた孫尚香はこの時すでに孫権を打ち破らなければならない敵とみなした。
 翌日、心の中で告白のセリフを一晩暗記してきた孫尚香は抜き足差し足で孫策周瑜の寝室の入口に近づいた。孫権がまだぐっすりと寝ている隙に機先を制するつもりだった。
 印象の中での小瑜児お兄ちゃんは大兄ちゃんよりも落ち着いた性格で、彼も冗談がすきだったが、大兄ちゃんみたいに大笑いして大声を上げたりすることはなかった。
 印象の中での大兄ちゃんは、格好よくて強い英雄だった?彼はニのお兄ちゃんを連れてサッカーをすると香ちゃんをいじめてくる隣のいたずらな小さい男の子みたいだった。大兄ちゃんはとっても小瑜児お兄ちゃんのことが大好きなようだったが、却ってよく怒らせてばかりいた。
 孫尚香は思った。気に入られるのは自分の中最大の武器だと。
「香ちゃんは小瑜児お兄ちゃんを怒らせたりしないもん!」
 だがこっそりとドアを開けると、気合い十分の孫尚香はドアの隙間で見たことのないふたりのお兄ちゃんを目撃した――
孫策、早く起きて!」
 部屋着のTシャツを着た周瑜が隣の涼んでいる孫策の身体に覆い被さった。二言漏らしたきり眠ったふりをした人はなんの反応も示さない。
「策策、策~策~、策~策~哥~!」
 布団を捲り上げ、周瑜はあごを孫策の裸の胸の上にのせた。一声も反応がなく、彼は呼び方を様々に変えて呼んでいた。
「オレの小瑜児よ、秋はまだ来ないし、春はさらに遠いじゃないか!」
 心の底から愛してやまない相手が胸元でふざけているので、孫策は起き上がって周瑜のあごをつかんだ。
「アイヤー策策哥は何のお坊さんのふりをしているのかな!」
 そっと孫策の鎖骨に噛みつき、周瑜のまとめていないセミロングの黒髪が肩に広がった。
「お坊さんがオレみたいにこんなにかっこいいか?」
 自分の顔を相当な自信があり、孫策は何気なく周瑜の黒髪を撫でて、また優しく彼の額にキスをした。
「でももっともかっこいいのはわたしだよ!」
 不満そうに身を起こした、周瑜のこの時の笑顔は孫策だけが見ることができた。
「わかったわかった、オレの小瑜児が一番かっこいい!策策兄さんよりもっとかっこいい!」
 自分の正面にいた周瑜をまた懐に引き寄せ、孫策の語調はまるで大事な恋人をあやすかのような口調だった。
 そっとドアを閉め、まだぐずぐずとしていた元気いっぱいの孫尚香は突然周瑜に告白する勇気を失い、彼女はゆっくりと自分と孫権の部屋に戻っていった。頭の中では周瑜のやわやわとして優しい声音が響いており、また大兄ちゃんの愛情たっぷりでやさしい目つきも記憶に残っていた。
 もともと小瑜児お兄ちゃんは決して大兄ちゃんよりも落ち着いているわけでもなく、小瑜児お兄ちゃんも大兄ちゃんに甘えるし、彼が甘えたら自分より大兄ちゃんに羽目を外させてしまうようだ。
 大兄ちゃんは決して小瑜児お兄ちゃんを怒らせるだけでなく、揶揄って笑わせたりする。笑う様子は見えなかったけれど、きっと香ちゃんが笑うより大兄ちゃんの心を刺激する笑顔なのだ。
 こっそりと孫権の布団に上り、孫尚香は眼からパタパタと孫権の顔にこぼした。
「あ!おまえ何泣いてんだよ!」
 目を見開くなり両目を赤く泣きはらした妹がいて、孫権はびっくりして大声を上げた。
「お兄ちゃん!」
 傷心のあまり孫権に飛びついた、孫尚香はさらに激しく泣き出した。
「わたしたちふたりとも小瑜児お兄ちゃんとは結婚できないわ……」
 孫尚香はその実なぜ周瑜のお嫁さんになれないのかはっきりとは言えないものの、ぼんやりとしたカンが彼女に訴えていた。ベッドでいちゃいちゃする大兄ちゃんと小瑜児お兄ちゃんは根本的にお嫁さんなんかいらないのだ。彼らは眼中にお互いのことしかないようだった。
「香ちゃん、権ちゃん」 
 大人の女性の優しい声がドアから聞こえた。孫尚香が泣く声に気づいた孫ママがベッドでがっかりと気落ちしているおばかさんを抱き締めた。
「どこに弟や妹をお嫁さんにする人がいますか?あなたたちの小瑜児お兄ちゃんは、永遠にあなたたちのお兄ちゃんよ、彼と大兄ちゃんは一緒に香ちゃんと権ちゃんを守ってくれるの」
「どうして!」
 最初からずっと孫尚香が言う「小瑜児お兄ちゃんのお嫁さんになれない」話がどうしてかと理解しなかった、孫権はママの口から答えを聞くことができた。
「小瑜児お兄ちゃんはね、あなた方が大きくなってもずっと大兄ちゃんと一緒なの。あなた方が小瑜児お兄ちゃんを無理に独り占めしようとしたら、大兄ちゃんがとっても辛いとおもわないこと?」
 我慢強く孫権に言って聞かせた。孫ママの眼の中にはいささかの諦めと自責の念が表れていた。
「大兄ちゃんはあなたたちにあんなによくしてくれるのに、あなたたちは大兄ちゃんに辛い思いをさせても、いいの?ましてやあなた方はずっとパパとママがいたのに、大兄ちゃんには小さいときから小瑜児お兄ちゃんしかいなかったのよ」
 無言のまま手を伸ばしてママの顔に触れた、孫尚香孫権はわかったようなわからないような様子でどうやら辛そうなママの様子を見た。
「ママ、権ちゃんと香ちゃんはわかったよ。ママも哀しまないで。わたしたちはずっとママとパパのそばにいるよ、小瑜児お兄ちゃんが大兄ちゃんのそばにいるみたいに」
孫策、どうやらきみの両親はもう……」
 孫尚香の泣き声が聞こえたのは孫ママだけではなく、ドアの外に、壁によりかかって眉をひそめた周瑜が恥ずかしそうな孫策を見つめていた。
「うん」
 静かに天井を見上げ、沈黙していた孫策は丸ですすでに責任を負う立場の男性のように見えた。
「もともと両親は知っていた。おまえの両親もきっと知ってる……でも彼らは却ってこんな風に我々を受け容れ包み込んでくれている……」
「何か作ろうよ」
 自分から孫策に抱きついた。周瑜の口調はさらに冷静だった。
「うちのパパとママも呼んで彼らの許し、包容、そしてわれわれへの愛情への感謝を表すんだ」
 学校に戻ったその日、周瑜は荷物が多すぎて運べないという理由で別の街に住む両親を呼んだ。周パパ周ママと孫パパ孫ママはもともと子どもを預けるくらい仲のよいつき合いをしていて、四人は久しぶりにテーブルを囲んでにぎやかに語らった。加えてうるさい孫尚香孫権もいて、両家の人たちは孫策周瑜がキッチンを締め切ってクリームの山を伸ばしているのにも気づかなかった。
「パパ、ママ、周おじさん、周おばさん」
 正午になると、キッチンのドアを開けて孫策が八枚の花びらの歪んだ花のケーキを両親達の前に捧げ持ってきた。後ろからは周瑜がキッチンから着いてきて、八枚の皿をテーブルに並べた。
「おやまあ――瑜児と策児がわたしたちのために作ったの?」
 まさか自分のうちの子と周瑜が帰る前にこんなことを考えていたとは、孫ママは嬉しくてすぐに周ママの手を握り一緒に美しいとは決して言えないカービングの花を眺めた。
「パパ、ママ、周おじさん、周おばさん、みんなありがとう」
 周瑜の手を引き、四人の大人の前で跪き、孫策は多くを語らず、一言で彼の心が感じるままの感謝を言い尽くした。
「おまえたちは何をするのやら!」
 周瑜孫策をそれぞれ引っ張り、孫ママと周ママは彼らと一緒に跪かんばかりで、一方声も出さなかったふたりのパパはそれぞれどっと笑い出した。訳がわからず顔を見合わせる孫権孫尚香
「ごめんなさい……」
 孫ママに寄りかかり、周瑜はそっと一言心の中にずっと抱えてきたやましさを謝った。
「ばかな子ね、ふたりとも……」
 慰めるように周瑜の髪を撫でた。孫ママは側にいる沈黙して語らない孫策と周ママを見つめた。
「どこの父さんも母さんもね、自分の子の幸せを願わないことがありますか、わたしたちの希望は策児がしあわせなことよ。あなたの両親の幸せはあなたの幸福よ。あなたが策児を幸福にしてくれる。策児があなたを幸福にする。どうしてごめんなさいなんて言う必要があるの?」
「言いたくないことも、言うには辛いことも、わたしたちにもあったわ」
 孫ママの話のつづきを周ママが孫策の手を握って言った。声は慈母が我が子に語りかける独特の優しさがあった。
「でも息子の一生の幸せに比べれば、なんて言うことはないわね?策児、覚えていてあなたと瑜児は何も謝ることはないのだと。あなたがたの喜びがわたしたちの最も嬉しいことなのよ」
「みんな立ちなさい、おまえさん達を見て弟も妹も逃げ出したぞ!」
 訳知り顔で孫策周瑜の背中を叩いた。周パパは話すとふたりのママよりはずっと自由闊達だった。
孫堅早くきみの息子も立たせろよ。そんなに背が高くては、成長を見守ってきたおじさんでももうおんぶもできやしないな」
 寝室のドアに隠れて、孫尚香孫権はこっそり客間で起こった一幕のよくわからないホームドラマを見ていた。なぜかはわからないが突然鼻の奥がジーンとした。
「お兄ちゃん――」
「うん?」
 振り返って妹を見た孫権もこの時心の中が疑惑よりちょっと優しい感覚に満たされた。
「香ちゃんは大兄ちゃんからは絶対に小瑜児お兄ちゃんを奪わないわ。お兄ちゃんも小瑜児お兄ちゃんの気持ちを邪魔したらだめよ!」
 まじめに孫権を見つめ、孫尚香は彼と共にふたりのお兄ちゃんを守ると誓った。
「もちろん!」
 小指を出して、孫尚香の小指と引っかけて、孫権は自分の気持ちも絶対に四歳の妹に負けないと示した。
「約束よ、大兄ちゃんも小瑜児お兄ちゃんも、ふたりともわたしたちが一生守るんだから!」
 
 四歳の孫尚香の物語が語り終わると、陸遜ははっと気づいた。なぜさっきのケーキの八枚の花びらがどこか違和感を覚えたのか。
「ああきみにはもう一人お兄さんがいたんだね!」
「え?あなたまだうちのニのお兄ちゃんに会ってないの!」
 振り向くとカウンターでコーヒー豆を挽く青年がいた。孫尚香はあれが孫権だと示した。
「あ?彼は孫策さんじゃないの?」  
 眼を大きく見開いて孫尚香を見つめた、陸遜は心の中で突然閃いた恐れを抱いた。
「うちの大兄ちゃん?」
 元気な目の色が途端に曇った。孫尚香は下を向いて陸遜を見ようとしなかった。
「瑜兄さんは……今まであなたに言わなかったの?」
「何を言わなかったって?」
 頭の中でグワンと音がした。陸遜の全身の神経が恐怖につかまれた。彼はじっと孫尚香を見つめる。早く答えを聞きたい、だが聞いたその後の突然の崩壊 も恐ろしかった。