策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よぼよぼ漢語 策瑜同人 nashichin先生 『蜜月』十

蝸牛 下

「それじゃあオレが卒業したら、オレたちで天のはしごを見に行かないか?」
 周瑜の想いをくみ取って、孫策は二歩下がって一緒に立った。
「今日のところはオレたちはこの小道を天のはしごとしよう、見るとこの小道はでこぼこだ、石板でできた天のはしごと比べてもどっちが歩きづらいかな!だから、おれたちふたりはどちらも登ろう、どんな珍しい天のはしごでも」
「きみは無駄口が多いよ」
 ぱんと孫策の背中を叩き、周瑜はすっと右手を孫策の左の手のひらに滑らせた。
「行こう行こう、廟に行ってお参りしよう」
「それから夫婦で天地を拝んだりするか?」
 周瑜の手を握りため息をついた。孫策のわんぱくな顔つきは完全に彼が大学院でも意気揚々としている学生会の会長とは思えなかった。
 古い廟に着くと、空には天に轟く爆竹が花を開いていて真っ盛りだった。山のふもとの細々とした爆竹の音もだんだん聞こえてきた。古い廟の外側の石段に腰掛けて、周瑜孫策の肩にもたれかかりながら、一つ素早く上昇する冲天砲を見ていた。
「近いな、こんなに近くで冲天砲を見たのは初めてだ」 
「それはだな、オレたちがもう天上にいるからさ」  
 周瑜の目線を追って、孫策の眼にも赤い花が咲いた。
「ハハ孫策きみは人を騙して財産を奪うつもりかほんとうにケチな奴だな、それともほらを吹くか?天上で我々は仙人になれるかな?」
 人差し指と親指でそっと孫策の上下する喉仏を押さえた。周瑜は笑ってだんだん成熟した男性の魅力を備えつつある顔を見つめた。
「そうだな、神仙のペアだ。我々以外の誰がいる?」
 我慢できずに首から痛みが伝わってきた。孫策周瑜の揶揄う手を押さえつけた。
「さわり足りないか、はたまた見つめ足りないか?」
 素早く手を引き抜き、孫策の太ももに座り込んだ、周瑜はにこにこと笑いながら孫策の顔を軽く叩いた。
「おい策策兄さんや、こんなにイケメンな顔を、きみはどうしてムダにするのかな?」
「ハハハ!」
 両手で周瑜を抱き締め、さっと自分の身体の下にした。孫策はずるそうに笑っていたがそれはかえって「この人は笑うと天真爛漫」という錯覚を起こしていた。
「それはな小瑜児、いつもおまえが一緒にいてくれるから顔なんてどうでもよくなるんだよ」
 新年の鐘の音が遠くから近くまで響いた。周瑜孫策の背後の天に昇る花火みたいな冲天砲の眩しく咲く様子を見た。
孫策
「うん?」
 周瑜の身体の上をうきうきとまさぐっていた手を止め、孫策は軽く返事をした。
「きみの後ろの冲天砲がとてもきれいだ」
 身体を起こして、周瑜の目線はまた孫策と重なった。
「そうか?」
 孫策周瑜の瞳の奥深くを見つめた。
「でもオレはおまえの眼の中に映るオレの方が冲天砲よりもっとかっこいいぞ」
孫策、恥を知らない奴だな?」
 孫策から自慢され機嫌良く揶揄われまたおかしかった、周瑜は膝を彼の無防備な股の付け根に押しつけた。
「おい小瑜児!恥知らず!」
 空にまた無数の爆竹が昇った。孫策はぎゅっと自分から抱きついてくる周瑜を受け止めにぎやかな除夜を過ごした。まるで夜空に咲く花火よりもさらに美しいものがあるかのように。
 小さな長江の埠頭の街を離れるその日、周瑜孫策は初めてボロボロのバス停で同じくぼろぼろのバスを待った。
 来たときよりも少し軽くなったたくさんの旅行鞄を手でぶら下げ孫策とぶつかった。周瑜はちょっと恨みがましく文句を言った。
「きみのスマートフォンの電源も充電できてなくて、バレンタインデーがすぎてもわからないなんて!」
「アイヤーおまえのスマートフォンだって半月も充電してなかったじゃないか!」
 旅行鞄の藍色の持ち手をつかむと、孫策は自分ひとりの過ちではないと示した。
「死にぞこないが、こんなに遅いのもきみのせいだ。車はみな行ってしまってわたしたちは待たなきゃならない!」
 この辺でバレンタインデーを間違って過ごしたせいでお互いに責任を押しつけ合った。そこに七十過ぎの老婆がもうひとりさらに年上らしい旦那を引っ張ってゆっくりと孫策の側にやってきた。彼女が夫に言う方言は今や周瑜孫策にも基本的に聞き取れるようになっていた。
「アイヤーわたしがのろいだって、何を文句を言って!」
 妻にずっとべらべらと文句を言われて苛立つも、杖をついた夫はむっとして言い返した。
「わたしがあんたよりもわかってないとでも?なんで動かないのよ、昨日のあんたは隣の李老人とあんなに元気にくっちゃべっていたのに!」
 支えてもらうのに嫌になった夫だが、妻はいつも何をするにでも夫のことを愚痴をこぼさないではいられないようだ。
「俺にかまうな!」
 震える手で妻の手を振りきろうとした。老人は腹に据えかねた語調だったが、孫策周瑜には却って妻に甘えているように思えた。
「かまうなだって?わたしだってあんたにかまいたくないね、死にぞこないが!」
 妻はぎゅっと夫の手を握った。ふたりの服のシワ同様誰にも承服しない顔はふたりで築いてきた数十年の暗黙の約束が見えるようだった。
 地面から一陣の土ぼこりが巻き起こり、小さな街の唯一のバスが四人の目の前に止まった。
「死にぞこない、急ぎな!」
 妻は慌ただしくバスのドアを押さえた。凶悪な顔で夫を呼びつけ、愛想良くドライバーに話しかけた。
「すみません少し待ってくださいな。うちの旦那の足の調子が悪くてね」
 小石だらけの道で揺られて、周瑜は前に肩を並べて座っている老人達を見ながら周瑜は言った。
孫策、わたしが年を取ったら嫌いになる?」
「きっとおまえの方が先にオレのことがいやになるぜ!」
 考えもせず、旅行鞄に押しつぶされた孫策が隙間から答えた。
「なんで?」
 振り返って不思議そうに孫策を見つめた。周瑜は彼が笑いを必死に耐えているのに気づいた。
「たいがいおばあさんがおじいさんを嫌がって相手にしないだろう、どこにおじいさんがおばあさんを嫌うことがある。おまえさっき見ただろう?」
 大きく見開いた目で周瑜を見つめた。孫策は揶揄いつつも言葉の中に愛情がこもっていた。
「ばか孫策!」
 自分の抱えていた旅行鞄を孫策の手元に投げた。周瑜はもうふまじめな義兄をかまわない振りをすることにした。
「見ろよ見ろよ!今は孫策って呼んでいても将来はきっと死にぞこないって呼ぶんだぜ。それでもおまえはおじいさんを嫌うおばあさんじゃないってか。策策兄さん傷ついたな」
 周瑜のそばでごそごそするのをやめず、孫策は今にも泣きそうでかわいそうなかおをして見せた。
「あのおばあさんはほんとうにおじいさんが嫌いなわけじゃないだろ……」
 うつむいて小声でぶつぶつと言う。周瑜はぼんやりとこのとき孫策がふるえているのが見えた。
「なあ小瑜児もほんとうはバレンタインデーを忘れてしまった策策兄さんのことは嫌いじゃないんだろう?」
 横を向いた周瑜に迫った。孫策は機嫌をとるように尋ねた。
「バレンタインデーを覚えていたとしたら、おまえはオレたちでどうしようとするつもりだったんだ?」
 また孫策の喉仏に爪を立てて、周瑜は自分だけ触ることはできないことに気づいた。
「うん、ちょっと考えさせてくれ……」
 孫策は眉根を寄せて考えに耽る振りをした。
「食事をしにいく?一緒に街を歩く?一緒にベットに転がる?あ、バレンタインデーにするべきことで特別なことはないな」
「そう言ったら、じゃあ特別にわたしがすることはおかしくないね?」
 こっそりと起き上がって孫策の額に口づけを一つ落とした。周瑜は何ごともなかったかのように車の天井を見つめた。
「年を取ってきみがわたしのこともわからなくなっても、わたしはきみを嫌いにはならないよ……」
 埠頭に向かったバスはまだ揺れていた。冬の季節初日の出が上り車窓を照らした。そっと揺れ動く苦労を知り尽くした皺だらけの顔の上、また揺れている青春を謳歌している憧れいっぱいの顔の上に浮かぶものは、似たような幸福と笑顔だった。

 

「どうだい?このケーキに毒はなかっただろう?」
 話を終えた当事者のみが平凡なつまらないことでも真心がこもっていると経験していた。
 周瑜は蝸牛のケーキが深く話に聞き入っていた陸遜にきれいに食べ尽くされているのに気づいた。
「味はどう?きみのおすすめメニューになるかい?」
「おや?どうやってリラックスしてるのかな?」
 この蝸牛のケーキを作った蜜月の主人として、周瑜は「リラックス」の原因がわからない訳もなかった。だが、目の前の髪をかきむしって理由を探している陸遜を簡単には手放さなかった。
「えーと、わたしもうまく言えないけど、その他のおいしい美しいケーキに比べて、この蝸牛のケーキは見た目も良くないし、ものすごくおいしいというわけでもない。でも人の心にある種のリラックスするような感覚を与えるんだ」
 顔を上げてそっと手を合わせた。陸遜は楽しいたとえよりも自分の到達した合理的な理由を思いついた。
「わたしたちが毎日食べているごはんと同様に、レストランのごちそうのように魅力的ではないけど、かえってほんとうに不可欠なものだよ!」
「ははそうだね」
 陸遜の肩を叩いて賛同を示し、周瑜は意味深長につけ足した。
「それは欠くべからざるものだよ。多くの時は意識しないかもしれないが、でも蝸牛のから同様、いつもきみとは離れられない、家のような存在だよ」