策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よちよち漢語 2 亮瑜啊亮瑜先生「伴君左右」

 諸葛亮はゆるゆると座った。趙雲に向けて手を振った。「子龍も休みなさい。明日は蜀に帰らなければなりません」
「しかし、軍師、あなたはほんとうに大丈夫ですか」
 趙雲はいささか心配そうに諸葛亮に向かって言った。周都督が亡くなったと聞いてから軍師はいつもののどかな様子ではなくなっていた。彼が周都督のことが好きだったのは、趙雲も知っていた。だが諸葛亮がここまで落ち込むとは知らなかった。
「……下がりなさい」
 諸葛亮は頭もあげず、少しばかり疲れを見せていた。自軍の軍師のこんな様子を見て、趙雲は何も言えなくなった。彼は武人に過ぎず、陣に斬り込んで敵を倒すのは得意でも、諸葛亮周瑜の間にいったいどのような関係があるのか理解できなかった。それで、諸葛亮のためにしっかり戸を閉めて自分は隣の部屋で控えていた。諸葛亮は長々としたため息をついた。
 心の中がしんと静まり返り、あの方への惚れ込んだ愛情が思い起こされた。あの方への執着やあの方が突然失われた痛惜で自分はこのような失態をさらしている。赤壁の戦いが終わった後、諸葛亮はかの人があと二年の寿命から逃れられないと知っていた。だからかの人が自分に圧迫するような態度をとっても諸葛亮は我慢できた。しかし、まさか亡くなったと伝えられた時、自分は耐えられなかった。
 周瑜が東風の中、水軍を指揮して赤壁を焼いたとき、あの自信に満ちた笑顔は諸葛亮には永遠に忘れることができない……自分が覚えている周瑜のすべてを。
 しばし苦笑した。自分も情の一字からは逃げられないのだ。いや、逃げられないのは周瑜という愛の災難からなのだ。彼の優雅さ、彼の自信、人に対して謙虚で礼儀正しいところ、素晴らしい琴の芸、彼の笑顔でさえ諸葛亮には深みにはまる毒薬だった。明らかに虚しい結果だとわかっていた。すっぱりと失った。現在の心痛は、おそらく周瑜にとっていい報復なのだろう。
 このとき、周瑜は強烈な衝撃と痛みで眼が醒めた。彼は幽霊も痛みを覚えるとは知らなかった。そして、なんともいえぬ痛みだった。地面から這い上がって、見えたのは自分と向かい合って座っている諸葛亮だった。周瑜は突然自分は去らねばならないと感じた。そして諸葛亮の動きに左右されているのを受け付けず、手を彼の肩に触れようとしたとき、一陣の痛みが周瑜の指先から体の隅々まで広がった。
 何かが周瑜の身体に湧き上がり、痛みで周瑜は倒れた。胸元を抑えて苦しんだ。なんともいえない奇っ怪な感覚、明らかに自分の感情ではないのに、自分のからだを通っていた……。
 愛、悔い、痛惜、同情など強烈な感情が刺激となって周瑜の身体に痛みを与えた。もっとも胸元が痛んだ。
「誰だ」
 諸葛亮は立ち上がって後ろを向いた。
 今さっき聞こえたうめき声は明らかに周瑜のものだった。でも、自分の周りを見回しても、却ってひとりしかいない。
 この声は諸葛亮に自分の足下の周瑜にきづかせなかった。しかし、周瑜には果てしがない苦しみから脱することができた。周瑜は慌てながら身を起こし、激しく咳をし諸葛亮を見た。
「……彼はあんなにわたしを恨んで、どうして私の目の前にでてこないのだろう」
 諸葛亮は苦笑した。
「死んだ後でさえも、わたしに会いたくないのだろうか」
「公瑾……」
 周瑜は急にはっとわかってしまった。さきほど自分の身体に沸き起こったのは諸葛亮の感情なのだ。自分に対する愛情、苦痛、周瑜はすべて感じとれた。もしそばに人がいていつも冗談交じりの諸葛亮のこの深い思いの様子をみたらきっと感動するだろう。惜しいことに周瑜は生来自分の気持ちを抑えるのが得意で、諸葛亮は今は周瑜のことが見えず、ぼんやりとした様子だった。
 何に心を動かされたかというと、周瑜はすでに……死んだということだった。
 諸葛亮は当然以前のように自分の前に立っている周瑜が見えなかった。周瑜はため息をつき、また座り直した。
 周瑜は少々考えた。霊堂に戻った方がいいのではないかと。
 彼はもうここではなにもできないことを残念にも思わなかった。しかし、この部屋からどうやって離れようかと試みるも、ちょっと遠くに離れると、全身に痛みが走り、一歩も出られなくなり、戸にすら触れられなかった。ここでぼーっとして、でられるときを待つしかなかった。
 周瑜は苦笑いした。思いがけなくも、幽霊をするのは人間でいるより難しい。生前の自分も江東のために苦しんでいたのではないか。何のためにか、彼は比較するすべも無かった。ただ孫策に出逢ってから、自分は日夜孫策のために尽くして尽くして今はもう見られない国のために奮闘してきた。征戦の途中の死でも、責任を免れたのか残念なのかもわからない。