「伴君左右」(あなたのそばで) 亮瑜啊亮瑜先生
彼は自分がどこに行くべきかわからなかった。あるいはどこに行くかとしてもだれかが連れていくのかもわからなかった。彼は自分の棺の上に座っていた。
彼は他人が彼を冷たい棺に納めるのをその目で目撃し、その後のことも見ていた。この度死んだのは彼なのだ。
彼は気にしていなかった。自分の青白い顔も右あばらのまだ治っていない傷のことも見なかった。
そうこうしていたら、鬼卒がくる前に、あいつがやって来たのだ。あの自分の江東の大業を阻んだ最大の邪魔者が……。
諸葛亮。
周瑜は彼に対してまったく好感を持っていなかった。しかし、あのものは霊堂に進み入って来たときの顔は自分と同じように青白い顔をしていた。そのことはいささか気詰まりに思えた。
諸葛亮、どうしてそんなふりをする必要があるのか……周瑜は彼の顔を見つめていた。だが、どこにもおかしなところはなかった。しかし、周瑜はそれを一笑に付して信じられなかった。あたかも諸葛亮が自分の死をつらく思っているなんて。
周瑜は振り返り、白い着物を着た痩せた女性を目にすると、眼には幾ばくかのやましさを浮かべた。彼は東呉に対し忠心を捧げたかわりに、小喬にはつらい思いをさせた。彼は彼女が嫁いできた時の恥じいる表情さえ覚えていなかった。
もういい、もう終わったことだ……自分はついに死んだのだ。周瑜は依然として自分の棺の上に座りながらぼんやりと見ていた。
諸葛亮。彼が周瑜の棺を赤い眼で見つめて、哀悼の言葉を述べるときの緊張した広い背中をみていた。
ただ今呉蜀両国の連盟は脆弱にすぎず、彼はそこで周瑜のために哀悼の文を読みに江東までやって来た。諸葛亮に対しては、周瑜はすべてを見通せない。
孫権が喪服を着てそばに立ちひどく泣いているとき、周瑜は感慨を覚えて笑いたくなった。しかし、孫権はこちらを見ていない。
諸葛亮は長々とした哀悼の言葉を読み終わると、悲しみすぎて傷ついた諸葛亮は、そばにいた趙雲に助けられて霊堂を出ていった。そのときの周瑜はずっと棺の上に座っていた。諸葛亮が入口を出た瞬間、周瑜は急に強力なちからで吸い寄せられ、心臓に劇烈的な痛みを感じ意識を失った。
最後に目前にひろがったのは諸葛亮の揺れる背中だった。