策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よちよち漢語 竟雲何先生『長河吟断』

《长河吟断》竟云何 先生

好きすぎてどうしても最初の幼少期のところだけ拙い翻訳で紹介します。
大人編はこれまたセクシーで情熱的な二人が見られます。そして別れの後は、いつまでも孫策を忘れることのできない苦しみに周瑜が悩み、戦っています。
では一章から。

 中平二年、三月。

盧江郡のある狭い山道では、一台の牛車が道を選ぶ余裕もなく奔っていました。車軸はいままでこのような重荷を負わされたこともなく、ギャッと音をならし、黒毛の牛は息遣いも荒々しく、車夫に死に物狂いで鞭打たれ、一瞬たりとも止まりませんでした。
「早く行きなされ!」
 乳母は彼をしっかりと抱いていた懐から出して、決然として車から降ろしました。
「早く林のところへ、何を見ても出てきてはだめよ!乳母がもう少ししたら探しにきますからね!」

 子どもは地面から立ち上がり、怖がりながらも目の前の牛車を見ていました。御者の阿橋を除く男たちはすでにみな見えません。さっきまで車の中にいたのは自分の耳を押さえてくれていた乳母でした。しかし、粗暴な雄叫びや罵り、憤怒の怒号、金属がぶつかり、落馬する哀れな惨叫といった連綿と続く音は聞こえていました。彼はこのことがさっきの音と関係しているのだと気づきました。
「あなた方は……」
「早く逃げて!」
 乳母は彼に向かって泣き叫びました。
「少ししたら、わたしたちが迎えにきて、あなたを家に連れて帰るわ!」
 子どもは少しためらって、乳母を見つめてから、いささか贅をこらした衣服でトテトテと走って行きました。

 黄色の大きな旗がその威力を誇示しながら、遠くからだんだん近くへとドンドンと音をたて、道に赤い土煙を激しく起こしながら、素早く素早く人だかりをしてきました。一群の人は牛車をぐるりと囲みました。
 子どもはまだそんなに遠くへは行かずに、近くの林の中の草むらへと隠れました。彼は目の前の出来事を見て、完全に何が起きたのかわかりました。そして、乳母が再び彼を家に連れて帰ることはないとも理解しました。
 その一群のものたちはみたこともない貧しい者達でした。小作農の民たちより百倍もぼろぼろでした。髪はぼうぼう顔は垢だらけ、もっともマシな者が着ているのは奇妙で複雑なつぎはぎだらけの衣服でした。大部分の人はまだ天候も涼しい三月の空に裸同然で、一糸もまとわずまるで檻の中の家畜のようでした。そして、彼らの表情と目つきには狂暴な狼のような貪欲さが透けて見えました。子どもには去年巻き狩りで周暉が大勢の人を走らせ何匹かの野生の狼を囲ませたときの、あの狼と同じ赤く光る目を一群のものたちはしていました。

 阿橋と乳母はさっさと乱暴に車から降ろされ、乳母はきっと恐ろしかったのでしょう。彼女は泣きすぎて息切れを起こしていました。阿橋も驚きすぎて顔色が血の気を無くしていました。その場に立ちつくして動かず言いました。
「お願いです。旦那さま、我ら夫婦をお助けください!」
声色は震えていました。
 みたところ首領らしき男が前に出ました。顔には一条両頬と鼻筋を貫く傷痕がありました。その男は血に塗れた亜麻布の上着をきていました。手には、子どもが家で何度も見てきた百夫長の周吉の腰にあった長剣を握っていました。
「お前達は夫婦なのか?何しに行った?」
「はい……はい旦那さま、わたしたちは墓参りから帰ってきたところです!」
「車の中に子どもはいなかったか?」
「い、……いいえ……」
 男は笑い出しさらに獰猛に見えました。笑いながら、長剣をいきなり小さな車へと突き刺しました。顔色は突然変わり、片脚で車を蹴飛ばしました。振り返り怒鳴ります。
「子どもはどこへ行った?!」
「はい、はい旦那さま、子どもはいません!」
 続いて起こったことは子どもに目をぎゅっと閉じさせた。しかし、阿橋の続けざまに出た鋭い叫び声と乳母の絶望的な大声の泣き叫ぶ声が子どもの方へ吹き出してきて、さまざまな感覚を満たした。子どもの心臓はドキンドキンと脈打った。全身がひどく震えた。無意識に痛む胸元を抑えた。このとき、こっそり隠し持っていた懐の匕首を思い出し、素早く抜くと、這い出して強盗へ向かった。

 そのとき、背後から突然手がのびて、しっかりと子どもの口を抑えた。その上、素早く断固として後ろへひきずっていった。子どもは抑えている人の腕をつかんでジタバタと暴れたが驚いて見ると相手も子どもだった。相手の子どもの手は、痩せてはいるが、とても力強く、まったく動かせなかった。
 ずーっと遠くの桑の木のところまで引きずられた。相手は子どもを離すと、歯形がついた手をさすりながら笑った。
「おまえみたいな馬鹿は見たことがないぞ!」
 子どもは地面に座り込んで、この飛び入りの客を見上げた。
 陽光が木々の間から相手の顔を照らしていた。黒々とした泥汚れでいっぱいで、顔つきがさっぱりわからなかった。まんまるな大きな目は限りない活力と元気さを湛えていた。唇の赤さは夏のサクランボのように艶やかで、口の端は跳ね上がり、どんな表情でも笑っているようだった。
 いいや、それは彼は何のために笑っているのだろう。それは子どものことを笑っているのだ。
「お前はどこの子どもだ?なぶり殺しにされたのはお前の父親か?その……あれはお前のお母さんか?」
 その子は彼の顔を見て興味津々に問いただした。しかし、子どもは話さなかった。ただ相手の目を見つめていた。
 彼らは同じような年齢のようだった。しかし、そのおそれるもののないような大胆な目つきは同じ世代の子にはそれまで見られなかった。全身に鋭敏な感覚と警戒心があり、幼い童というより少年といったほうが似合っている。
「びっくりしすぎて呆けたか?」
 少年はまた大きく口を開けて笑った。手を伸ばして思いきり子どもの顔を捏ね回した。彼は痛くて眉をしかめた。平手で相手の手を退けようとした。相手と話をするつもりもなかった。少年はまじめではなく、強く子どもの頭をくしゃくしゃに撫でた。子どもの衣服をまくりあげ、しばらくいろいろ探ってみた。子どもも自分が驚き呆けたのではないとわからなかった。ただ話したくなかった。そこに座り込んで少年のいたずらに抵抗も消極的にしていた。
「おまえは元々しゃべれないのか!」
 少年の考えは答えが出た。はっと悟って言った。子どもの睨む目を見ても、かえって歯をむき出して笑った。
「早く立てよ!地面に座っていたら冷たいだろう?」
 そう言うと子どもを引っ張って立たせ、手をつかんで走り出した。
 子どもは彼の泥だらけの手を退けたいとおもったが、少年の力はとっても強くて万力のように子どものことを捕まえて、河沿いに何十里もひきずって走った。すぐに子どもの足はだんだん言うことを聞かなくなって、走ってつまずいた。少年はやっと気づいて、驚いて言った。
「おまえはそんなにヤワなのか?二歩も歩けばだめなのか?!」
 子どもは喘いで石壁に凭れた。顔を上げて周りを見る。彼らはさっきの林の道からずっと遠くにきたようだった。桑の木から遠くへ歩いてきた。周暉がかつて教えてくれたように太陽で方向を判断しようとした。しかし、彼の頭の中には阿橋と乳母の叫びがいっぱいに響いていて、暗くぼうっとなり、どこの方角かもわからなかった。
 少年は子どもの心を読んだかのように言った。
「オレ達は南に向かっている。オレのお父さんが地図を見せてくれたことがある。南に向かっていけば舒城だ。町に入れば黄巾もこわくないぞ!」
 舒城の二文字を聞いて、彼は不意に驚いた。振り返って少年の顔をじっと見据えた。相手はまた笑った。
「お前はオレを信じないのか?オレは方向もわかっている。お父さんに学んだんだ!それはそうとお前はどこに住んでいるんだ?」
 子どもが答えないのを見ると、少年は続けた。
「そうだな、お前のお父さんお母さんはおそらくみな死んでいる。お前がどこの子どもだろうと同じだ。これからはこのお哥ちゃんと一緒だ、お哥ちゃんが守ってやるぞ」
 そう言うと勇壮に姿勢をまっすぐにして、自分の肩を叩いて見せた。
 子どもは少年の芝居っ気たっぷりなところを、みて笑い出しそうになった。その一瞬忘れていたあの叫び声が頭の中をとどろき渡った。少年は子どもに向かって笑った。背を向けて蹲り、振り返って言った。
「こいよ、オレが負ぶってやるよ!」
 彼をこれまで負ぶった従僕たちの背中とは同じではなかった。少年はやはり十歳程度の子どもだった。筋肉質でも痩せていて子どもを背負って山道をよろよろしながら歩いた。しかし、全然疲労感はなかった。日にさらされ黒々とした首からは止めどなく汗がにじんだ。小さな体はほかほかと熱くなった。
「オレは、前にも阿権をよく負ぶっていたんだ。逃げるときな。あるとき急に逃げなくてはいけなくて、お母さんは阿翊を抱いて、オレが阿権を負ぶったんだ。一晩中歩いたさ。夜の山道の歩きにくさを知っているか?すげぇぞ」
 少年は疲れも見せずに、ごちゃごちゃと聞いているかどうかも気にせずしゃべり続けた。
「あとからお父さんが戻ってきてオレ達の様子を見に来た。何日かしてすぐにまた出発するとき、オレは言ったんだ『オレも戦に行きたい』って。お父さんはへへっと笑ってオレの頭を指で弾いた。馬鹿もんって。そして行ってしまった。オレはお母さんに嘘をついて、糧秣の車の中に隠れて、こっそりとお父さんの隊に着いていったんだ。それからどうなったんだか、目が覚めたら夜中だった。やかましいケンカの音が聞こえて、オレはお父さんが心配になったんだ。飛びだして探そうとしたら、見つけられなくて、馬に踏まれて死にそうになったり、刀でやられそうになったりした。空が明るくなって、オレは部隊を見つけられなかった。地面には死体があふれていた。オレは死体一つ一つたしかめてお父さんではないとわかって、安心した。それから馬のひづめの跡を追いかけて歩き、十日ほど歩いた。まだお父さんたちには会えない。逆に黄巾の奴らには結構遭った。びっくりしたオレは官道を行くのをやめて、ずっと林の裏に隠れていた。お前を見たときにはー」
 少年は振り返って笑った。
「真っ白なのが動いていて、オレはウサギだと思ったんだ!」
 子どもも少年と話したいと思った。今日は母上の亡くなった三年忌で、父上は私兵を連れてすでに一ヶ月以上経っていた。一緒に命日に墓参りに行くことはできなかった。乳母が子どもを連れて十数人の家の者と一緒に祖先の墓に詣でた。母上の死も納得しかけたばかりなのに、この不幸な記念日にさらに親しい人々の死を目の当たりにした。子どもは少年に乳母が話してくれた昔話を話したかった。阿橋が作ってくれた動く木製の人形のこと、周吉がこっそり贈ってくれた短剣のことも話したかった。けれども、彼の舌は眠り込んでしまったかのように、何も話せなかった。
「あ、そうだお前!」
 少年は非難するようにいいかけた。何かを言おうとしてまた飲み込んだ。笑って言う。
「ただオレに抱きついていないで、汗を拭いてくれよ」
 子どもは急いで袖で少年の首に滴った涙を拭いた。ついでに自分の顔を拭いた。きつく唇を噛みしめた。しかし抑えがたい嗚咽が漏れていた。
「この山道は本当に歩きにくいな。歩くたびに汗が溢れる!」
 少年は振り返りもせずにしゃべっていた。子どもは少年の耳元に顔を埋め、声もなく乳母のため、阿橋のため、周吉らのために慟哭した。少年はもうおしゃべりはせずに、ただそっと歌を歌い始めた。それはかつて泣いていた弟の阿権を慰めるために歌っていた歌だった……
 
 孫策は後悔と言うもの、恐れと言うものを知らなかった。彼は自分が衝動に駆られ、家にじっとしていることができないのをわかっていた。こっそり食料の甕のうらに隠れ、また襲撃混戦に遭い、完全に父親の足跡を見失っていた。幸運なことに下邳にいるころ、お父さんは彼に詳細な盧江郡の地勢と城の位置を教えてくれていた。彼は毎日こっそり出歩き、こっそりものを食べ、あちこちを探った。兵士達が話すのを聞いていると、もうすぐ盧江らしい。盧江郡の治所の舒はまだ行ったことがなかった。お母さんから聞いた話では、舒城は豊かで栄えていて豪華であると。名門の豪奢な家が建ち並んでいる。雲の如く商家、市場が華やかで、戦乱で荒れ果てた下邳とは全く違うと。父親とはぐれてしまったのなら、舒城でちょっと遊んでいくのもかまわないだろう。そこはにぎやかでおもしろそうだ。それにくるひと去る人、いろいろ聞いてみたら父親の孫堅の行き先もわかるかもしれない。決めると、羊皮紙に書かれた淡い暗い地図のことをよく思い出そうとした。北極星と太陽を見て方位を判断した。まっすぐに注意深く官道を避けながら舒城の方向へ歩いた。十歳程度の子どもである。林の中でウサギを捕まえ、鳥を捕まえ、魚を捕り、途中で飢えることもなくすんでいた。
 今日はお母さんが作った湯餅を食べている夢を見た。口に入る前に溢した。かっとなったところで目が醒めた。見えたのは焼け焦げたキジバトの半身であった。どうしようもなく長いため息をついた。最近運気がよろしくない。ここ二日間食べるものを捕まえられていない。彼は精神集中して草むらを観察した。心から期待して捕まえられる獲物を探していた。突然車馬の音、女人の泣きわめく声、それからのさわぎ、今までからの豊富な経験で、孫策はただちに草むらの奥深くへ身を躱した。そこでみると小枝の伸びた下に何かまっ白なものが動いていた。情勢は不味いが、彼はここ何日かたっぷりと食べものを口にしていなかったをウサギのような白い影を見て、よだれが流れ、身を屈めてこっそりと白い影に近づいた。
近づいてみると、少年は失望し驚きもした。意外にもそれは彼と似たり寄ったりの年頃の子どもで、背後から見ると整えられた総角、衣服もあっさりとして清潔である。露わになった首は雪のように白く柔らかい、まるで蓮根のようである。孫策はこの子どもがこんなところに現れたのは不思議なことだと思った。まさか伝説の不老長寿の人参赤ちゃん?!
 人参赤ちゃんは両手で木の枝にしがみつき、よそ事には興味が無いようにみえた。少年が近づいてもまったく気づいていなかった。少年はこっそりとちかづかないようにしようかなと、考えていると、草むらの外から男と女の恐ろしい叫び声が聞こえた。孫策はこれまでの旅でこういったことは見慣れていた。両人の運命も予想がついた。しかし、この目の前にいる人参赤ちゃんは突然服から匕首を取り出し、前へ飛びたそうとした。孫策は考える間もなく素早く前へ進み、子どもの口をふさぎ、もう片方の手で後ろへ引きずった。ずっと安全なところまで引きずって離した。人参赤ちゃんは力は無かったが、歯は鋭く手には二つ歯の跡が深く残った。
 手を放した後、赤ちゃんは憮然として座り彼と話さなかった。この時になって顔を見て、孫策はさらに驚いた、白、まっ白だ、お母さんの絹のうちわのように白い。眉毛は細長くつり上がり、斜めにこめかみに向かっていた。冷たくて傲慢。目はとてつもなく美しい。秋の澄んだ湖水が光を反射させながら波打つように輝いている。しかし、このときの目は鋭利なこと孫策を突き刺す刀のように鋭かった。
 このような攻撃性は孫策にとってはなんでもなく、面白いと思わせた。よくよくこの子どもに近づいて見てみた。警戒心なく近づいてみれば、とてもいい匂いがした。よだれが出てきそうだった。見るからにお金持ちの子どものようだった。なにかおいしいものを隠し持っていないか、服に手を伸ばし、袖をさわってみたり、もれがないように隅々までさぐった。
その子どもは嬉しくないようすだったが、けれども十分な反抗もしなかった。

 探索した結果にはがっかりした。おいしいものはなかった。もし、人参赤ちゃんがたべられないという話なら。ひもじいひとときが過ぎて、孫策の心はよく考えた。思うに、あの男女はこの子の父母なのだ、父母があのように……されたら辛いだろう。かわいそうだ。こんな愛らしい様子を見て、この子をここに放っておいたら、ここで死んでしまうだろう。そこまで考えると、孫策は彼の腕をつかんで立たせ前へ進んだ。
 足手まといになったっていい、まあ仲間ができた。孫策は生まれつき話好きで、なんでもなくてもお父さんやお母さんにずーっと話しかけたり、阿権のために昔話なんかをしたり、今回わき目もふらずに二十日話もせずに来た。退屈すぎて死にそうだ。簡単にできたツレは、どうやら話すことができないようだが、孫策はお構いなしにたくさんの話をほじくりだしてきた。聞いているのか、わかっているのかも関係なく。しゃべり続けていると、首のところが冷たく感じた。ひやかそうかと思ったが、考えを改めた。ひどく辛いのだと思った。