策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よちよち漢語 六十七 需要愛先生「思為双飛燕」

四十四章 問計 計を問う

 自分では重大な進展があったと感じて、孫権はこれからの段取りを計画することにした。しかし、この計画に思わず孫権は愕然とした。もともと自分は公瑾を長年慕い続けてきたが、今まで遥かに見えていた爽やかな風に吹かれた後ろ姿が孫権の心中では様々な美しい想いと絡まり合い、今では口に上る人となった。重要な山場となり、孫権はどこから気持ちを表したものかわからなくなった。
 いったいどうしたものか?孫策は昔どうしたのだろう?孫権はなんとか幼児の記憶をたどってみた、蜘蛛の巣のかかった竹簡を取り出してみたが、惜しいことに孫策がいかにして周瑜を枕を共にする人としたのかはなかった。過去の痕跡から小さな跡を見つけるのは参考にならないのではないか。
 孫権は手を後ろにして内殿をうろうろした。左に三回、右に三回回った。それから霊感がピカッと光った。そうだ、ぼくは君主なんだ、君主が困っていることは臣下が何もしないで見ている道理があるだろうか。そうだ。ぼくは子敬たちに聞いてみるべきだな。
 そこで三日後、将軍府で起こった会話である。
 まず魯粛に対して、孫権はごく丁寧な口調で問いかけた。
「子敬よ、わしは最近ある美人に恋をしておる。しかし、その美人に微笑んでもらえるすべがまったくないのだ。卿はなにか良策はないかね?」
 美人?魯粛はちょっと驚いた。内心主公がどうしてプライベートなことを話し出したのかもわからない。そこでうやうやしく答えた。
「主公、わたくしめは愚鈍でして、もとより佳人に取り入るすべを知りませぬ。主公におかれましては、別の方に聞くがよろしいかと」
「なにが愚鈍な者か」
 孫権は慌てて言った。
「わしの言っておるこの美人はそなたのことを気に入っておるのだぞ」
「は?」
 魯粛はびっくりした。内心誰なんだ、主公の後宮でどうしてわたしのことを気に入るとは?そこで生真面目に答えた。
「主公、それは間違いにございます、わたくしめは、主公の後宮に入ったこともなく、美人に会う機会もありません」
「あー、そこにはこだわるな。ぼくが聞きたいのは、なにか良策はないかということだ」
 魯粛は啞然とした。再三自分は本当に知らないと繰り返した。将軍府を出た後、魯粛は思わずちょっと想いを馳せた。美人?わたしを気に入る?どんな場所で会ったのだろう?孫権が将軍府で設けた酒宴で白い手で酒壺をもっていた侍女だろうか?なにかちがうような。それとも孫権と一緒に見物した舞の中の舞姫の一人だろうか?その女子が遠くから自分を見て気に入る?まさか自分は最近あか抜けて洒脱な男前になっただろうか?ドキドキ、または喜ばしい気持ちで、魯粛は帰った。
 次に来たのは張昭である。孫権は前と同じく対策を聞いた。張昭の答えは簡単直接的で、
「主公の後宮の美人で主公にいい顔をしないなど、その女子は誰にいい顔しようとしているのです?主公!この女子には厳重な罰が必要ですな、どうして主公の威儀が保てましょう?!」
と言う。
「子布いいぞ」
 孫権はちょっと喜んだような口調で言った。
「子布は知らぬことだが、この人は普通の人ではない。通常のやり方ではだめなのだ。さらに侍妾と一緒に語ることもできないのだ。その……わしが言うならば、この人は生まれが尊くてな、軽んじることなどできないのだ、子布よ」
 張昭はどきっとした。
「身分が尊い?」
 あの袁術の娘も孫権後宮でお仕えしているのではなかったか、袁家四世三公、まだそれよりも身分が尊い?侍妾の類いではない?袁術の娘よりも身分が尊い……まさか……?張昭は慄然とした。
「主公ーー!」
 まさか孫権は身分が尊い漢室の皇族の娘を後宮に召し入れるつもりなのか、張昭はなんとか漢室の皇族の中で、公主と呼ばれるぐらいの娘を思い出そうとした。しかし、記憶からは思い出せない。
 張昭は孫権の元で重任を任されているが、いつもは漢の臣下を自認していて、曹操孫権に人質を送ってこいと言ったときも、張昭は渾身で送るべきと主張した。曹操の大軍の圧力に恐れをなす一方で、その他に、張昭は心中では漢室に想いを引かれており、魯粛周瑜みたいに、孫家が一番とはおもっていなかった。今、孫権がこのように語り、張昭はなんとも言えない感慨を覚えた。
 孫権は張昭がさらに語り出すのを待っていた。まさか張昭が突然孫権に跪き拝礼しだしたので、孫権は飛び上がるほど驚いた。せわしなく子布さあ立ってくれ、これはどういうことか?
 張昭の目にはかすかに涙が浮かんでいた。
「主公よ、もし漢室の逃げてこられた公主が江東にいらっしゃるのなら、主公は公主に不敬を働いてはなりませんぞ……」
 つづく張昭の声は涙と共に近年つづいてきた漢室がいかに衰微し、各地の漢賊が、いかに皇室を苦しめて食い物にしてきたか滔々と語った。
 孫権はどうしてこのことを語っているのか、わからず、ぼーっと語り終わるまで聞いていた。最後は我慢できずに言った。
「子布、もうしゃべり初めて一時間だ。休んでくれ。わしの言ったことは、漢室とはまったく無関係である」
「ちがうのですか?」
 張昭は涙で目の前が朦朧としていた。また驚き喜んだ。
「ああ、それならよろしい」
 なにがどうなっているんだ。孫権はため息をついた。いつもは争って主公のお悩みを分かち合いますというのに、主公の悩みは悩んだままで、まったく誰も知音となって分かち合ってくれないぞ?
 最後に孫権は側に居た周泰に言った。
「わしの訊ねたこと、どうやって美人を得たものかわかるか?ここまではな、恐れ多いか、涙を流すかしかない」
 周泰は黙っていたが、突然言った。
「主公、なにをまだ訊くことがありますか?」
「あ?」
「直接奪ってみればいいのです。どうしてそんなにこだわる必要がありますか」
「あ?!」
 孫権は愕然とした。、しばらくして、突然喜んで小躍りし周泰の肩を思い切り叩いた。
「ぼくはなんできづかなかったんだろう?幼平の言は天からの音楽のようだ。夢から醒める心地だぞ!」
 孫権は内心で呟いた。どうしてこんなに精力を費やして遠回りしてきたのだろう。お兄ちゃんの生前の強い覇気を思い出せ、周瑜が新婚の時もお兄ちゃんは邪魔しに行っていた、孫策の弟としてどうして優柔不断で縮こまっていられようか!
 このように孫権は心の中の悩みを一気に吐き出して、気持ちが固まり、大局を握り、天下を睥睨する気分となった。
 三日後、孫権周瑜を林の中での狩りに誘った。周瑜は本来断るつもりだったが、孫権が熱心に何度もつきまとうので、しかたなく行くことになった。林の中につくと、孫権はわざと周泰を背後の守備と言い訳して残し、自分と周瑜だけが一緒にいる瞬間を作った。野外でちょっと唐突にこの人と一緒といっても、重大な進展がそんなに多くありそうとは思えなかった。
 周泰は我慢強く木陰の外で待っていた。随時主公を保護するのに動静を観察していた。それから遠からぬ場所から主公の、わあ、というような声が聞こえた。周泰は大いに驚き、急いで見に行った。
静かな林の中では野獣の出没はなかった。なんの危険もみられなかった。ただ主公が顔を押さえながらひどく苦しむ様子でいた。そして、普段は玉の如く穏やかで優しく、英気渙発の大都督の周瑜がこのときは威儀もことごとく失われ、主公にわめいていた。
「良いところを学ばずに、兄上のずる賢い、人をいじめて勝とうとする所ばかり学んで、き、きみ、きみはわたしを怒らせておかしくするつもりか!」
 このとき孫権は顔に一発パンチを食らって記憶が蘇った。突然孫策が当初周瑜の結婚の夜を邪魔しにいったのは間違いない、ただし戻ってきたとき顔に怪我をしていた。自分はどうしてそんな重要なことをわすれていたのか?周瑜は気分が悪い時には、他人を殴るのが好きなのだ、あ、失敗!
 しかし、顔の青たんを揉みながら、孫権の心はドキドキしていた。さっき二人きりでここに来て、自分は前を歩き、周瑜はその後をついて歩いた。自分が急に振り返りがばっと公瑾を抱きしめたとき、彼は長いこと反応がなかった。最後に幼児にわからせるように言われた。
「仲謀、手を放しなさい!」
「公瑾!ぼくだってお兄ちゃんの弟だ、手を出すときには出すんだ、離さない!」
 公瑾の腰はとてもほそいんだなぁ。いつもはゆったりとした衣服で見えないけれど。髪は黒くてつやつやとしている。抱きしめていると充実感がある 。身体にはかすかに香りがする。いつも身につけている香袋かな、それとも、寝室で焚いている香かな、それとももともとの体臭かな。
 周瑜は訝しげに唇をややつりあげ……目は意味ありげに物を言うように……まるでさそっているかのよう……。
 孫権は頭を下げて、誘惑的な唇に近づけていった、そのときに顔に一発パンチを食らった。顔が突然斜めに歪んだ。
 まもなく、周泰が慌てて走ってきて、手は刀のつかにかけたまま周瑜に対して警戒した。
「幼平、刀から手を放せ」
孫権周泰に声をかけた。振り向いて涙声で周瑜に言った。
「公瑾、今日はわしが悪かった」
「きみ!」
 周瑜は怒りも頂点だったが、周泰がいるのを見て、話すのはまずいと思い、孫権も謝っているしと、やや気持ちも落ち着いた。
 孫権周泰に目配せで下がらせると、周瑜に近づいて小声で囁いた。
「公瑾、ぼくはあなたがずっと書房でことを行のが好きだと知っているんだ、日を改めてぼくたちで書房でことを行うとしようか?」
 本来周瑜は怒り、恥ずかしく、加えて孫権がどうしようもなく進歩せず、このやぶから棒に書房でことを行うと聞いて、可笑しくなり、孫権の脳にはいったいなにがつまっているものか、どうしてこんなにおかしいのか、だれが彼と書房でことを行うのだろう?
 周瑜がひどく怒りながら、苦笑していると、孫権は見とれていた。やっぱり周瑜はこの言葉が可笑しく、顔にも嘲るような笑いが我慢できずに現れ出ていた。しかし、孫権の目には自分が書房の一言を出して、周瑜が口の端を吊り上げ加えて満面真っ赤に染まり、美しく感じられた。
 やっぱり書房は当たりだったんだぁ、孫権は天を仰いでため息をついた。いつも竹簡を取り出して復習するのも、よいことがある。ただ自分が肝心な所をつかんでいないから失敗もあるんだ!
 そして、周瑜は自分が孫権を叱って、殴ったあとは、孫権は顔面に傷を負って苦悩して怒り、さっきは確実に苦悩の表情を浮かべた。これは周瑜も見たのに。いつの間にか孫権はまた活発ににこにことして周瑜の方を見つめていた。
 周瑜はもともと人並み優れて聡明で、思考も回転が速く、速やかにひと回転すると、内心でだめだこりゃと叫んだ。さっき自分がした冷笑が孫権に誤解されている?今周瑜は意識した。日頃は十分透き通るように頭が良い孫権がこと□□の時は、道理を持ってわからせることのできないものになってしまう。常人には理解し難い。いままで孫権が受けてきたショックが、結果このようにある方面では道理に合わない人間にしてしまった。
 周泰は主公と大都督の間になにが起きたのかわからなかった。ぼんやりと知らない方がいいことだと自覚していた。かれはこの後、長いこと大都督が将軍府にくるときには書房が立ち入り禁止の場所となることを理解した。主公と大事なことを討論するときには必ず正殿で話し、書房の門には絶対に入らなかった。正殿は書房より大きく、守衛の人手も多く必要だった。周泰にとっては面倒だった。
 しかし、周泰孫権に対して大都督が面倒くさいなどとは言わなかった。実際江東の上から下までみんな知っていた、孫権に対面するときに、周瑜の悪口など言ってはいけないことを。確実に、話してはだめなのではなく、話に上げざるを得ないのである。それは周瑜の話になったら、孫権は必ずにこにことして、周瑜は学んでは博学で、周瑜は智謀は遠慮多謀で、周瑜は才貌双全と言い聞かされる。老将軍の程普などは以前は大都督に対してかなり批判していたが、そののち公瑾と交わると醴を飲んでいるような心地よさになってしまうとまでいうようになった。周泰は信じていた。周瑜の人となりが確かに人を心服させるものだと。もう一方で主公が毎日うちの大都督がと自慢していることも一定に作用していると思っていた。
 聞く回数が多すぎて、現在周泰も段々確信するようになっていた。あるとき主公と意見が不一致なときでも、大都督は完美の化身、逃げたりしない!
孫権がひきおこした、あまねく江東の周郎の一挙手一投足や衣服を真似するブームが巻き起こった。上が好むものは、これはみなが従うところ、古人は誠に嘘をつかない。
 そのような和気あいあいとしたところにある一人がやって来て、突然破壊された。周泰はそれから長いことまったくわからなかった。主公がなぜ突然大都督に対して悪口をいうのか。寂しさに耐えかねて淫らな行為をなすとはどういう意味なのか。周泰が考えるには、大都督は公務の辛労が絶えず、家に何人か侍妾がいても悪いことはないと思う。今は美しく可愛らしい妻の小喬が一人いるだけである。寂しすぎではないのか?淫らなこととは何を指すのか?
 しかし、周泰の関心は主公と大都督のナントカカントカではなく、江東全体が面している一大事、曹操が南下して大戦が一触即発であることだ!