策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よちよち漢語 四十 需要愛先生 「思為双飛燕」

十八章 情誤 情の誤り(中)

 それから数日間、孫権周瑜が自分に対してとても優しく付き合って相手にしてくれているのを感じた。どこにでも連れて行ってくれたし、常に親密な関係だった。たとえば、肩を抱き寄せたりしたり。孫権は満足までしてはいなかったが、なにも無いよりはましである。
 このようにとても楽しい日々は過ぎてゆき、半月後、孫権は呉夫人からの手紙を受け取った。驚き、時間をかけて意識を取り戻した。呉夫人は手紙の中でいうには、孫権は周家の屋敷にてお世話になることすでに半年である。そろそろ戻るべき頃ですよ。孫権の心の中では極めて離れがたかったが、母の命令には逆らいがたく、その上ずっと周家にいられる立場でもなかった。
 周瑜に暇乞いをするときには、孫権は顔色が暗く沈んでいた。周瑜孫権を励まし、父の遺志を継いで功業をうち建てようと話した。孫権は意気消沈した様で聞いていた。その後で顔を上げて尋ねた。
「公瑾、まだなにかぼくに話すことはないの?」
「あっ、わたしの代わりに義母上によろしくお伝えしてくれ」
「わかった。ぼくたちいつ再会できるかな?」
 周瑜は微笑んだ。
「仲謀、後日わたしときみのお兄ちゃんが肩を並べて戦場を駆け巡るとき、それがわたしたちの再会の日となるだろう」
「え、あなたは現在でも寿春の袁術に身を寄せることもできるんじゃ…」
 孫権はドキッとした。
「今はまだ、わたしは動くことはできないんだよ」
「じゃあ、きっときてよね」
 孫権はちょっと焦った。
「安心してくれ。わたしが話すことには、かならず見通しが立っているんだ」
 周瑜は力強く孫権の肩を叩いた。
 孫権はしばし黙り込んだ。
「思ったんだ。ぼくもあなたにはお別れの礼を求めないって。でも、公瑾、あなたはぼくに成人の礼をしなかったことを忘れないでね」
「……」
 周瑜は内心孫策のしょうも無い考えは家族にまで行き渡り、現在孫権は初夜で失敗したことで完全に頭にきている。別なことならともかく、こういうことをどうやって補償するというのだ!周瑜は決まり悪げに曖昧に対応した。
 三日後、孫権周瑜と別れ曲阿に戻った。家に帰ってからは、孫権孫策周瑜と同様に、郡のあちこちの県の出身者と広く交友をもった。さまざまに親交を結んだ。そこで、彼は少年として成長し、応対も機敏で一時的にちょっと有名になった。
 自分の人づき合いが苦手な性格を克服するために、お兄ちゃんと周瑜を見習った。孫権はなかでも同年齢の付き合いに注意した。同窓生に仲間はずれにされた過去とは永遠にお別れした。一時は、曲阿に住む士族の子弟で、孫権と付き合いのある者は、百余りと増えた。孫策は里帰りの際に、孫権の性格が前よりも快活になっているのを見て喜んだ。
 交際が広がったことにより、変わっている人達も孫権の前に多く現れてきた。おじさんの呉景の遠縁で呉良*というものがいた。孫権と友達になって半年ぐらいである。この時の孫権は背格好もだんだん増えて、目元も少しずつ子どもらしさから脱却していて、本当の少年らしい姿を備え始めていた。孫権より四歳年長の呉良はいつも孫権の容姿を格好いい、普通とはちがっていると褒めていた。孫権は笑って答えながら、そうは納得していなかった。もともと孫権は幼いときから見たり聞いたりしていて、人々がいかにうちのお兄ちゃんや公瑾お兄ちゃんのことをおおげさに褒め称えるのか知っている。そのような褒め言葉はもはや耳に何層も胝ができるほどだった。呉良の褒め言葉を、孫権が聞いていて、聞き流している。
 しかし呉良は孫権が自分の褒めそやすのをこのように受け取っているのを見て、ますます他の人とは違うと思うようになった。呉良はあるとき孫権に人に俗っ気を吹き飛ばす、または玉のような容貌で天人の姿だと言った。孫権は内心では冗談でもちょっとおかしいなと思ったが、深くは考えなかった。呉良は喜びを抑えきれずに、眼で一歩一歩探っていた。孫権がO.K.してきたら、かねての宿願が叶うかどうか。
 もともと、この呉良というものは素より断袖の癖があり、曲阿に来て孫権に出逢ってから日夜忘れられなかった。ただ、孫権の性格は良くて親友となることができた。本当に近づきになれた後、孫権という人は外側は熱く、内側は冷めていると発見した。親しく近すぎるのは良くないかもしれない。いわんや断袖のことは、もし相手にその気がなければ、自分は言ったが最後拒絶されてしまう。今、孫権に対する自分のからかいの言葉は明らかに受け取られたに違いなく、呉良は思わず気持ちがウキウキしてきた。
 呉良の知らないところで、孫権少年はいかに人と親しくなっていけばよいのか実際よくしらなかった。彼は広く友人を欲しかったけれど、友人同士の親しさの加減はどうやって調節、配分するのかは、まったくぼんやりとしていた。また、彼は孫策のようなお祭り騒ぎの性格でもなかったので、まじめまじめに真似て振る舞っていた。ちっぽけな名声を得て、才能を付き合いや言葉の応酬の上で試していた。その上、幼く経験が無かった。それゆえに呉良に対して行き過ぎた親しさで近づいてしまった。孫権にはまだ警戒する気持ちがなかった。
 ある日、呉良は最後の手探りを試してみようとした。宴席の最後、孫権を郊外の野原の散歩に連れていった。なんでもないふりで、曲阿の地元の二人の少年を話題にした。その二人は地元の噂では龍陽のよしみだと言われていた。呉良は一歩退いた振りをして、言葉に軽蔑の気持ちを表した。それから、孫権がどんな反応をするのか細かく観察した。
 孫権は聞くなり、顔に面白くない気持ちを出していた。袖を払って言う。その言葉は誤りだ。また言う。二人の男子は互いに思い慕い合っていて、恩義を報い合い、なんの不都合があるのか?最後に孫権はさらに言う。ぼくがみるに、男子の間の親密な関係は男女の間と比べてもっと純真でよりあっさりとしたものだ。世間の人はデタラメを言っている。小人の心で君子の腹を図る…邪推というものだ。
 呉良は孫権のご高論一番を聞くと、思わず驚きほうけた。以前会った孫権は、ひとりの聡明な少年にすぎなかった。今の彼の発言を聞くと、天人のようだと驚いた。呉良は自分が断袖だと気づいてから、常にこの癖でこの世に受け入れられないと思い、深く苦悩していた。どうして孫権のようにきっぱりと、男子の間の親密な関係は男女の間と比べてもっと純真でよりあっさりとしたものだ、と言い切れるだろう。このことはまっすぐと心に大きく響いた。古今を震撼させるほどに!
 呉良は感動して孫権の手を握った。喉がつかえて言葉が出ず、しばらくしてやっと言えた。
「このバカ兄は数歳上ですが、弟殿と相い比べてまったく米粒の玉と白い月、霜枯れの葉と春の花のごとくかけ離れている。仲謀は奇才だ。奇才だあ」
 孫権は快く言った。
「つまらない議論を述べたのみ。呉兄どうしてそんなに興奮しているのですか」
 呉良は俯いていた頭を上げた。孫権の眼をじっと見て一字一句はっきりと言った。
「仲謀、明日の晩、兄の家にちょっと遊びに来ないか?」
「明日の晩は何も用事はないよ。ぼくも呉兄とちょうど話したかったところだ」
 孫権はさらりと答えた。 

*呉良 需要愛先生オリジナルキャラクター、無良と音が同じことから命名