策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よちよち漢語 三十九 需要愛先生「思為双飛燕」

十七章 情誤(上) 情の誤り(上)

 昼まるまる寝ていた孫権は本当は眠気など無く、壁に向かって縮こまっていた。頭の中では立った今の一幕が思い返され、こっそりと涙が思わずこぼれた。
 あの少女はいくらかか器量よしではあったけれど、孫権からしてみれば村娘と変わりなく、関係を持ちたいとは思わなかった。
 しかし、彼女がしきりと周のだんな様のお申しつけなのだと言うので、実行しないわけにはいかなかった。孫権は最後には受け入れた。今考えてみると、周瑜はあのような劣ったろくでなしを宛がえば十分だと考えていて、孫権はますます自分の才能や聡明さが無駄になったと感じた。周瑜には欺かれてばかりで長い間真意が見破れなかった。
 しかし、この時の孫権の心の内は怒りと苦悩でいっぱいだったけれど、他の一大事に彼の注意力の大部分が注がれた。もともと孫権は先に白い絹本で男女の事を論じているのを読んでいた。さきほど実戦してみて、彼は知ることができた。
 ただし、孫権はひとつの問題に気づいた。周瑜と自分は同じく、男だ!
 もちろん以前にも周瑜が男であることは知らないわけではなかったが、孫権は房事上のことで枝葉末節にいたるまでは考えたこともなかった。今日あの少女と経験したあと、ちび孫権は突如として目覚めた、性欲のことで、男女が相和すのは不変の道理で、自然のことにできている。
 しかし、男同士のことは初めから無理があるのではないのか?
 お兄ちゃんと周瑜はあの最中になぜ愉しんでいるのか?孫権はいろいろ考えて、ついにわかった。なるほど彼らはただしているふりなのだ!だいたい言うならば……自瀆?その中身も互いに撫でさすったり、ぎゅっと抱きしめたりするだけ。自分はあれ以来ずっとお兄ちゃんを悪者扱いにしてきたけれど、これは何の淫らなことでもなかった。男同士のことは男女のことよりずっと単純なことのようだった。
 そう思うと、孫権は一時的に少し怒りも収まった。そんなわけで、さきほど周瑜が自分の肩を抱きしめてきたのは、とても親しげだった。お兄ちゃんのほうがやや親しみが多いだけのことだ。
 あれやこれや考えていたあと、孫権は耳元で周瑜のリズムの整った小さな呼吸音が聞こえた。周瑜はすでに孫権の後ろで眠っていた。心配事がやや落ち着いた孫権は寝返りを打った。すでに暗闇に慣れた眼は、周瑜が自分の側で安心して横たわっているのが見えた。顔の輪郭は暗闇と同化して一体化していた。身体のラインはとても柔らかで、いつもは孫権がちょっと見つめられない、桃の花のような眼は閉じられ曖昧な弧を描いていた。睫毛は濃密で伏せられ、鼻はつんと立ち、薄い唇はこのときはやや上に持ち上がっていた。まるで夢の中で何かいいことを夢見ているようだ。
 やっぱりいいなぁ、と孫権は感慨を覚えた。公瑾お兄ちゃんは眠っていてもあの村娘より風格が違う。心の中で突然ちょっとドキリとした。
 ややもして、言い知れない気持ちを抱いて、孫権周瑜の身体へと手を伸ばした。手のひらからは薄い中衣を通して温かい身体が微動するのを感じられた。孫権は驚いてすぐに腕を引っ込めた。目をこらして見てみると、周瑜はまだ眠っていた。そこでつづけて大胆に手を伸ばした。周瑜の腰にふれた。しばらく待ち、変化がないのを見て、孫権はついに自分の身体もずらした。またちょっと動き、さらにずらして、二人の間の距離は手のひらぐらいにまで近づいた。どこからか勇気を出して、孫権は前に転がり、貼り付いた。
 自分の腕は周瑜の腰回りに絡まり、ぎゅっと抱きしめているのと同じ姿勢で、二人は一つにぴったりとくっついていた。手をちょっと動かして、そっと周瑜の腰の滑らかな線を少しなぞってみた。
 孫権の心臓は太鼓のように激しく脈打っていた。こう撫でて、こう抱きしめて、自分もお兄ちゃんと同じく、周瑜と親しい関係になったのだ。全身細かく震えた。その震えは興奮を表していた。また、無意識的にくっついている相手への衝動も引き起こした。
 周瑜は本当はもう起きていて、孫権が身体にくっついた瞬間には目が覚めていた。けれど、目を開けずに、眠ったふりを続けた。孫権が自分の懐に倒れ込んで来たときにはひどく驚かされた。とても驚いたが、周瑜孫権が震えているのに気づいて、彼を責めることはしないと決めた。しかし、孫仲謀はいつも幼くして聡明なのに、うまくいかないこともあるのだと思った。
 震えが収まって、孫権はやっとおちついた。目線はあちこちと動き、周瑜の緩んだ襟から、身体の細かい凹凸に従って、脳内では自分が考えているのかもはっきりしなかった。じっと見つめることしばし後、突然抑えきれずに手を周瑜の襟に伸ばして引っ張った。ただし周瑜の首筋に触れて止まった。止まった瞬間顔色がちょっと青ざめた。
 周瑜はもう眼を見開いていた。にっこりと笑って見つめていた。
「仲謀、勝敗は兵家の常。どうして輾転として眠れないのかな?」
 勝敗?ああそうだ、周瑜の手に負けた。騙された。今もやっぱりぼくを揶揄って。孫権は腕を引っ込めて、嘆き、そっぽを向いた。
 この子は悲しんでいる。周瑜は咳をひとつした。心の中で考えた。これ以上彼の傷口を抉るまい。みたところ仲謀は彼の兄より自尊心がかなり強いようだ。ちょっと揶揄うこともできない。
「ぼくは昼に寝すぎたから、今眠れないんだ」
 孫権は遅れて打ちやるように答えた。
「んっ?それならいい。わたしも眠れないんだ」
 周瑜は身を起こして微笑んだ。
「一局勝負するのはどうだろう?」
「いいよ」
 孫権もすぐ身を起こした。孫権はまだ周瑜と対局したことがなかった。
 周瑜はまた腕を伸ばして、孫権に温かい抱擁をしてあげた。孫権は心の中では嘘つきはやっぱり気がとがめたりしないものだと思っていた。一方周瑜はやっぱり子どもで、少しは元気になったのかなと思った。
 二人は改めて灯明を灯して、机の側に座り、対局を始めた。黙々と対局し、終始ずっと無言でいた。