策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よちよち漢語 二十六 需要愛先生「思為双飛燕」

 それから数日中、ちゃんちゃんバラバラと十数人が舞い戻ってきた。
 お兄ちゃんの孫策の初めての出陣はここに終わりを告げた。

 周瑜孫権の気持ちが一番落ち込んでいた時に訪ねてきた。当時、孫策は不撓不屈の精神でやりくりの難しい自分が自立して主にならんとする事業を続けていた。失敗したとしても、孫策のことである、孫策はがっかりして落ち込んでいるような人ではない。呉夫人と孫権孫策がしているよりもはるかに心配していた。孫策と亡くなった孫堅は同様に、頭の中に負けるとか憂慮するとかの語彙はないようだった。
 孫権周瑜がちょっとお兄ちゃんの孫策に忠告してくれるのを願った。
 周瑜が訪ねてきたとき、孫策は不在で、孫権はすぐに姿や声を巧みに真似て周瑜に一連の出来事を伝えた。孫策がどうやって兵を興し、どうやって失敗したのか。
「でもお兄ちゃんは僕の言うことを聞かないんだ。休養はいらない、まだ兵を募ることを続けるって。あの祖郎とかいう山賊をもう一度とっちめてやるって。お母さんはお兄ちゃんをすごく心配しているんだ。公瑾お兄ちゃん、お母さんに代わってお兄ちゃんに忠告してくれない?」
 周瑜は最初は眉根にシワを寄せて、手は膝の上で握り締められていた。孫権がじーっと自分のことをみつめているのに気づくと、ふっと微かな微笑みを孫権に見せて言った。
「わたしは曲阿にくる道すがら、ほんの数日の旅程だったけれど、仲謀が話してくれたことはみんな知っていたよ」
「それはよかった」
 孫権はちょっと考えて、
「ねぇ、きっとお兄ちゃんに言うよね、己の力量を考えてことを行えって」
と言った。
「わかったよ」
 孫策が家に帰ってきたとき、周瑜は立ち上がって話しかけた。
「兄上、鳳凰は九天をを旋回しなければならないのに、どうして山鳩のようにぼうぼうの野原の間を飛び回っているのです」
 孫策周瑜を見つけてまずは喜び、この話を聞くと怒った。目線が部屋を一周し、端っこから無垢な眼で見つめている孫権の上に止まった。
「仲謀がなにかおまえに言ったのか?」
 孫策は思わず言った。
「勝敗は兵家の常。たかが、山賊ひとつ恐るるに足りん」
 周瑜は笑った。
「山賊はもちろん畏れるにたりないでしょう。わたしは伯符がいっとき察しが足りなくて、今後はきっと大勝全勝できると信じています」
 孫権はかたわらでこの話を聞くと、目を見開いて周瑜を見つめた。孫策をよく諌めると言っていたのではなかったの?周瑜はいま何をしているの?
「一時的に察しが悪くて、ごほん、そうだな、一時的に察しが悪くてな」
 孫策の顔はやや熱っぽくなった。
「なぁ、おまえがオレのところに訪ねてきたのは……?」
「ええ、わたしは道すがらここに来ただけです。伯符、きみは江東に長くいて二張のことを聞いたことがありますか?」
「二張?」
 孫策はせきばらいをして座った。
「聞いたことがあるような、でも、公瑾詳しく話してくれ」
「一人は彭城の張昭、字は子布。一人は広陵の張紘、字は子綱。二人は天地を経営できるような極めて偉大な才能の持ち主です。戦乱を避けて江東に隠居しています。伯符が今後大事をなさんとするならば、まさしく優秀な人材を求めるべきです。どうして訪ねていかないのですか?」
「張昭、張紘?」
 孫策は指でテーブルを叩いた。
「おまえが言うのも道理だ。しかし……オレは大業を始めたばっかりで、二人が味方についてくれるかな?」
「もちろんだめでしょうね」
 周瑜は正直に言った。
 孫策はちょっとプンプン怒って言う。
「公瑾!」
「だめといっても、万事転ばぬ先の杖です。伯符にもし大志があるならば、早々にこのことには着手すべきです。まず先にこの二人の許を訪れさせて、生涯の目標を託して、改めて自ら訪ねて賢才と対策をもとめるのです。もし、この二人を招くことができなくとも、良策の一つや二つ得られれば、大いに役に立つことでしょう。それに、二張は江東内外で有名です。伯符は今、父上のお陰で名を知られていますが、この機会に、孫伯符本人は賢才を尊び招いているという名声を高めましょう」
「うんうんうん」
 孫策は聞いていてしばしば頷いていた。二人の頭はだんだん近くなり、話すたびに興奮してきた。
「公瑾おまえの考えはもとより良い。しかし、オレが思うに、この二人はすでに名士である。いつも来訪する人物はきっと往来が絶えないだろう。どうして才能明らかな我らの孫家はその他と同じで良かろうか、かれらにひとつ忘れ難い印象を留めてやらねばなるまい」
「それは考えたことはなかった」
 周瑜はちょっと驚いた。
「なぁ、公瑾、全くの無名なのだ、やってもむだなら、やらねば、大規模にな!」
「じゃあ、このたび訪ねるのは、どうやって大規模にするの?」
 周瑜は固唾をのんだ。
「少なくとも、あきらかに特別な才能があってだな、ん……」
 孫策はしばし黙考した。
「公瑾お兄ちゃん……」
 孫権は二人の傍らでやきもきした。かれらの喜色満面の顔といったら!賢才を尊び求めて名声を高めるって、孫家のお金は孫策にすっからかんに使われて、また戦に負けたし、彼らは現在の緊迫した事情に気づいてないとでもいうの?収入と支出のやりくりは?
「仲謀……」
 二人の目が突然孫権に集中した。それは一種孫権にぞっとさせながらも、あちこちと観察した。
 孫策の口が裂けたように笑った。
 そして、孫権を手招いて、ひどく魅力的な優しい声で言った。
「仲謀、ちょっと来い。お兄ちゃんは相談がある」