策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

よちよち漢語 二十 需要愛先生「思為双飛燕」

 地面には何着もの華美な錦袍が広げてあった。その衣服には雲状の細かな刺繍があり、つやがあって洒落ていた。
 孫策はひとしきり迷って、一着の暗紅色の錦袍を引っ張り出して、側の親衛隊兵に渡した。
「収めておけ」
「お兄ちゃん。これはどこから来た服なの?」
 孫権は暗紅色の錦袍を撫でてみた。さわり心地は柔らかく、厚く重みがあり、確かによい物だった。
「おぉ、ぜんぶ裏の倉から鹵獲したものだ」
「お兄ちゃんが着るの?」
 孫権はちょっと考えて、
「お兄ちゃん、これ着たらきっとかっこいいよ」
と言った。
「オレは着ない。人に送る」
 孫策会心の微笑みで笑って、孫権の手を引っ込めさせた。
「人に送るの?誰に?」
「おまえの公瑾お兄ちゃん」
「え?」
 孫権はびっくりして固まった。そしてやっと云う。
「お兄ちゃん。また周瑜と口ゲンカしたの?」
「してないよ。あいつは遠く舒城にいるのに、おれがどこでケンカするんだ」
「じゃあ、お兄ちゃんはどうして服を送るの?」
 今度は孫策が驚いた。
「服を送るのになんかまずいことがあるのか?」
「お母さんが言ってたよ、『きもの(女紅)は女子の物、綺羅は美人に送るもの、宝剣は英雄に贈るもの』お兄ちゃん、錦の服を贈ったら、お前は英雄には相応しくないって悪口にならないの」
「はは、はははは」
 孫策は大笑いしはじめた。
「ばかちび、英雄は宝剣を愛すれども、服も着るし飯も食う。衣服を送ることがどうして悪口になりえようか」
 孫策はしゃべりながら自分の考えにいい気に調子に乗ってきて、
「オレと公瑾とは兄弟で気持ちを同じくし、知らない奴がよい品を贈って寸志を表すのとはくらべものにはならない。オレは行軍、戦争の合間に、あいつに普段着る服を送る、するとあいつは一見してオレの気持ちを知るのさ。これはちびにはわかるまい」
「公瑾お兄ちゃんは一見してわかるの?ほんと?」
 孫権はちょっと半信半疑だった。
「確かだ。信じないか?お前と賭けるか」
 孫策は腰を屈めて、ヒヒヒと笑った。
「オレは公瑾が錦袍を受け取って、三日以内にオレに返事を寄越すのに賭ける」
「三日?舒城とここは馬を飛ばしてやっと三日の距離だよ。お兄ちゃん、大きくですぎだよ」
 孫権は認めなかった。
「じゃあ、お前は賭けるか?負けたらオレの馬の世話当番だぞ。餌やりをするんだ」
「賭ける」
 孫権孫策の手とパチンと打ち合わせた。

 七日後、彼らが軍営を出発する前の晩、軍営の外から早馬が一匹やってきた。舒城の周家の門客で手紙を携えてきていた。
 周瑜からの返事を受け取った後、孫策は大いに喜んだ。
 一言問うに、早馬はやはり、三日前孫策の贈りものを受け取った後すぐに舒城を出発し、飛ぶように素速くやってきた。
 孫権は目を見張って、ただただ驚くばかりで、
「お兄ちゃん、神様みたいにお見通しだ」
と言った。
「神様の予想なんかじゃないさ。そうだな……んーお前にはわからん、ちょちょっとあっちいけ。おれは手紙を読みたい」
「手紙になんて書いてあったの?」
 孫権は首を伸ばして見ようとした。
孫策は手の中に絹布を隠して、
「他人の手紙を盗み見るのは、君子のやることじゃないぜ」
と言い、手紙を読み、手を少しだけどけて、
「じゃあ、ちょっとだけ見せてやる。おまえが思っているような悪口はないからな」
 孫権はプンプン怒りながら見てみると、絹布の上には力強さ漂う筆跡があった。
『伯符殿 贈られた錦袍は毎日身に纏い、伯符兄の帰る日を待っています……』
 その後は孫策に隠されて見えなかった。
「見てはいないが、公瑾はすでに着たようだ」
 孫策は絹布を握りながら、るんるんで走って行ってしまった。
 孫権は口をとがらせ、長いこと驚き呆れていたが、側の厩をちらりと見て、ぷんぷんしながら馬に草を食べさせに連れて行った。
 夕方遅く、軍営の自分のテントにもどると、孫権は自分の衣服を片付けて出発の準備をした。
 竹簡を取り出して、じっくりと刻んだ。
『公瑾、篤く錦袍を愛す、宜しく之を贈るべし』とかなんとか。