五章 辞行
お兄ちゃんの孫策が旅支度をしているのをみて、孫権はうらやましくてならなかった。お兄ちゃんは、また父上について従軍するところだった。
しばらく見ていて孫権は、すばやくくるりと出て行った。外堂まで走って孫堅の懐に飛び込んだ。
「父上、ぼくも行きたい。ぼくも行きたいよ」
「おい、おまえはこんなに小さいのだから家で母上と留守番していなさい」
孫堅は孫権を抱っこした。
「好漢は志は四方にあり、権ちゃんも父上に従って視野を広げたい」
「ハハハ、よいこだ」
孫堅は呵呵と大笑して、
「二年過ぎたらお前を連れて視野を広げよう」
「でも、お兄ちゃんは七歳で従軍したよ」
孫権は不服だった。
「それは俺が当時彼らを安全に置いておける場所がなかったからだ。バカだなぁ」
孫堅は嬉しげに笑った。
「この度は何日いられるのですか?」
呉夫人がとても心配そうに尋ねた。
「三、四日だろう」
「父上!ぼく行きたい。連れて行ってよ」
孫権は孫堅の膝の上で駄々をこねた。
孫堅はポンポンと孫権を軽く叩くと、口を滑らせた。
「来年、もう一歳年を取ってから連れて行こう」
「ほんと!一回約束したから絶対だよ!」
孫権は孫堅と掌を打ち合わせて約束した。
「たったの三、四日……」
呉夫人は黙ってしまった。