策瑜で三国志ブログ

一日一策瑜 再録しました。三国志、主に呉、孫策、周瑜について語ってます。基本妄想。小ネタを提供して策瑜創作してくれる人が増えたらいいな。

臨時 一日一策瑜 関係性の深さ

 久しぶりの策瑜ネタです。三国志のなかで男性AとBの関係性に何らかの意味を見いだすのがBL的楽しみのひとつです。
 また、昨今はビジュアル等の好みなどから、なんら接点もない男性AとBをくっつける拉郎配もあります。
 ワタシは燃料がないと萌えない派なので、接点があるほうが、断然盛り上がります。

 今回取り上げるのは、孫策とBL的可能性がありそうなのはだれか!?

 まず最初は、太史慈。後世に残る一騎打ち!お互いに兜と手戟を奪い合い(プレゼント交換?)しました。帰順した後は、孫策からは信頼され各地を転戦、南方の慰撫を任されています。これまで仕えたどの名士よりも若い主でしたが、強い信頼をよせてくれました。太史慈もこれに応え活躍し、曹操が当帰という漢方の薬草を贈って「北に帰って来いよ」のラブコールをしましたが無駄におわりました。

 二人目は虞翻!古の狂直などといわれますが、孫策時代の虞翻さんはかっこ良かった!医術で活躍!オリンピックアスリート並みの足腰で馬に追走!会稽で帰順してから、ラブラブです。孫策からは「蕭何」と喩えられ、「御史床」という立派な長椅子?をプレゼントされました。
許昌の朝廷に使者になってくれないかと頼まれたときは、わたしは「明府家宝」(とののたからもの)なのだからめったに余所に出すものではない、と虞翻さんらしく断っています。孫策亡き後も、富春の孫家の親戚のゴタゴタを収め、その後も活躍するかと思いきや、孫権とは合わなかったようで、グレます。孫策ひと筋の虞翻さんでした。

 三人目は孫河(兪河)!なにせ、孫策から愛されて、孫姓をもらい、不遇の時代も共に乗り越えた仲間ですよ。愛され←すごいパワーワードだなあ。

 同じく呂範も不遇の時代から支えた臣下でした。孫河さんはもともと親戚筋だからわからんでもないけど、呂範さんは孫策のどこが良かったのでしょう?やっぱり顔?あと二人で囲碁を打つ描写が仲の良さを窺えます。最古の棋譜(らしい?)が残っているというのも、呂範さんの一族が遺した?

 そして、周瑜。幼馴染み青梅竹馬。断金。双璧。セット扱いだよ。君臣だけど、友達で義兄弟で連襟。とうとう姉妹を嫁に貰ってほんとに親戚になっちゃった。最初は家格が周瑜の方が上で、孫家の武力を利用しその家族を保護する意味で両家は付き合っていたけれど、出逢いも周瑜が迎えに行ったから。歴陽の南渡も周瑜が追っていったから。袁術のところから離れるのも周瑜が決めたから。矢印は常に周瑜から見えるのですが、袁術の元から帰ってきた後は、孫策の喜びを表すかのように、家屋敷、地位、軍、ほぼ親族を除くと筆頭に置いています。さらには中護軍に任じています。プレゼントのトドメは鼓吹の一隊ですね。袁術の使っていた部隊ですから、ほぼ皇帝の格式?それをポイとあげる。音楽好きの周瑜には最高の贈り物でしょう。

ラストは張昭さま!おじさま、なぜ孫策のために出盧されたのですか?やっぱり顔ですか?父性が刺激されましたか?保護欲?孫策も張昭に、仲父と管仲に喩えて(ついでに自分も桓公に喩えてる)持ち上げるんですよ。人タラシだなあ。長沙桓王の諡号は張昭が考えたんじゃないかな…。

 ほかにも孫策と関係が深そうなのは、命を助けた呂蒙、会稽で出逢った賀斉、文人肌の張紘とかいろいろいます。
火 鳳燎原だと凌操とかも入ってくるかな。

 さて、策瑜の関係性の深さに対抗してくるのはだれか!?

よちよち漢語 四十三 需要愛先生 「思為双飛燕」

二十一 情讖 恋占い

 世間では、いつも満足できないことが多くて、思いが満たされることは少ない。たとえば半月前、孫権が朝も夜も毎日周瑜に一目会いたいと願っていたのに、その時は周瑜の影を待っても現れなかった。それが今、避けようと恐れおののいている時に、周瑜は人に手紙を持たせて、道すがら曲阿に寄り、義母のご機嫌伺いに来ると知らせてきた。
 ちょうど周瑜が来るその早朝、呉夫人は孫権に家僕を連れて大量の乾物を街へ買いに行かせた。孫権は市場をぐるりとめぐり、時間を潰した。夕方までうろうろしてから帰ろうとした。
 予想だにせず、後ろに十数人の家僕と一台の乾物を載せた車の孫権一行が帰る途中、意外にも周瑜の一行と出会った。
 遠くから、周瑜の馬の背に爽やかに騎乗しているさま、一群の随従が取り囲んでいる様子が見えた。目元には微笑みを浮かべ、きょろきょろとして孫権を見つけたときには、周瑜は上半身をやや屈めて高らかに叫んだ。
「仲謀!」
 周瑜は馬から身を翻して下り、孫権はやむを得ず馬を下りてあいさつするしかなかった。
「公瑾、ここで遭うとは思わなかったよ」
 孫権はちょっと笑った。
茶店で少し話さないか?」
 周瑜の微笑みは爽やかで優しく、孫権は内心誤解したのも、自分は仕方がなかったと思った。公瑾の顔は悪くなく、あの両眼は笑っていなくても愛情がこもった様子で、笑ったら自然と人をぎゅっと引きつけてしまうのである。このことを考えると、心が千々に乱れた。悶々としながら周瑜の後について茶店に入り、二人とも席についた。
 周瑜はいつも通り孫権の学業について少し尋ねた。孫権は何気なく周瑜が尋ねてくるのを聞いた。ただ、……口が答えるままに返事をした。孫権に尋ね終わると、周瑜は二言三言目には伯符の話を始めた。孫権孫策がまた袁術の元で大功を建てたこと、袁術孫策に九江太守を約束しておきながら、守らなかったことは知っているかと問うた。孫権は頷いた。そして言うには、袁術は愚昧で、急に止めて、でまかせをいっても、不思議では無いと思う、と。
 周瑜は笑い、仲謀このことで、どうしてきみの言うことを疑おうか。わたしから見ると、きみは気分が浮ついているようで、昨夜はよく眠れなかったのかい……周瑜の話が終わらぬうちに、孫権は突然両手を伸ばして、テーブルに置かれていた周瑜の左手を握った。周瑜はびっくりした。無意識に手を引き抜こうとしたが、孫権は思いっきり強く握っていた。周瑜は顔を上げて、わからないという顔で孫権を見つめた。
「あっ……」
 孫権は自分でも驚き固まった。自分ではぜんぜん周瑜の手を握ろうなど考えていなかったのに!しかし、どうしてか自然と手を伸ばしていた。触れたら離さず、内心ドキリとした。それから周瑜に向かって一人の弟として微笑みをひねり出した。唇の端をはね上げ、両えくぼを、きゅっとつくった。
 ついには対策が思い浮かび、
「あ、公瑾。ぼくは最近少し手相を観るのを学んでいてね、ちょっとぼくに見せてもらってもいい?」
「ああ」
 周瑜は眉を上げていたが、聞くなりとてもおもしろがってきた。
「それじゃあ、仲謀にお願いするよ」
「えー……、手相を観るには、まず手の形状を観る」
 言いながら、孫権周瑜の手を広げてみた。手のひらを上にして、片手は周瑜の指を握り、もう片手は親指と人差し指の間を抑えていた。
「公瑾はこのように、手の指が細長い、指の腹がつやつやしている。何年もずっと武術を嗜んでいて指先も親指と人差し指の間もみな硬いタコがあるけれど、皮膚はきめ細やかで骨がないみたいに柔らかく、形が美しい……」
 周瑜孫権に言われて顔をほんのりと紅くした。褒められているけれど、聞いているとなぜかちょっと腑に落ちない。そこで、孫権の話を止めて聞いてみた。
「この類いの手は何を表しているのかな?」
 孫権は目をあげて周瑜がまたニコニコ笑って、目で促しているのをみた。おもわず口からこぼれた。
「愛だなぁ」
「えっ?」
「その、その公瑾あなたが……ん……美人の運命で、一生の恋愛にめぐりあい、終生その愛で困ることになる」
 孫権はひと息に言い終え、手のひらに冷や汗をかいた。自分がどうしてこのような失敗を犯してしまったのか。もし、反応が迅速でなければ、周瑜に破綻を見つけられるところだった。もし見破られたらまずいことこの上ない!
「愛で困ることになる?」
 周瑜は俯いて、何か考えていた。表情にはほんの少し恥ずかしさとさらなる疑問が浮かんでいた。
「ふふ、根拠のない話だね」
「ん、根拠のない話、根拠のない話さ、これはみな田舎の言い伝えだよ。正確じゃない」
 孫権は照れくさそうに笑った。
「ちょっと聞くだけでもかまわないよ」
 周瑜は目をきらきらさせて言った。
「仲謀続けて」
「ごほん」
 孫権はぎこちなく続けた。
「さりながら、公瑾の手のひらのしわをみると」
 孫権は右手の人差し指で周瑜の手のひらのしわをなぞった。 
「線ははっきりとしていて、しわは深く刀で刻んだかのようである。これは公瑾の心が鉄石の如き心の持ち主で、志は遠大、常人の及ぶところではないことを示している」
 周瑜は聞いていて興味津々な顔になって、孫権に笑って尋ねた。
「愛で困ることになれば、一日中気骨もなく酒に溺れるのを免れない。一日中気骨もなく酒に溺れる人が、どうして鉄石の心を持てるだろうか?一日中若い女の子のことを考えて、高邁な抱負を持って翼を広げることができるだろうか」
「そ、そうだね」
 孫権はそう言うしかなく、
「ぼくは浅学非才で、見方も正確ではないんだ。公瑾も笑っていいよ」
と言った。
「あ、仲謀自分を責める必要はない。わたしときみ二人で茶店でのんびりおしゃべりしているんだ。堅苦しくする必要はない」
 周瑜孫権が自分の手を握ったまま放さないのをみて、いささか訝った。
「仲謀この手はまだ何か言うことがあるのかな?」
「あっ!」
 孫権はこっそり孫仲謀よ孫仲謀よ、間違いも甚だしく、見込みがないと思った。たとえ触ってとても心地よいとしてもずっと放さずにいられないよなぁ。いかにすべきか。
「外ももう暗くなった、細かなところははっきりとは見えないから、もうちょっと見せて」
 孫権は照れくさそうに笑うと俯いた。上下左右細かに見つめ始めた。鼻も周瑜の手につきそうなほど近づけた。
「別のことはやっぱりないよ」
 がっかりして自分の手を離した。これ以上放さないのはずいぶんおかしなことになってしまう。
 二人はしばしおしゃべりをした。周瑜はまだ道を急ぐといい、そこで孫権に別れを告げた。孫権は突然何を思ったのか、期待のこもった目で周瑜を見た。口からするりとこぼれた。
「公瑾、ぼくはちょっと骨相を観る術も勉強しているんだ。全身の骨を触って運勢を観るんだけれど、ちょっとみせてくれる?」
「……」
 周瑜はちょっと目の縁をピクピクさせた。
「わたしはまだ駅宿まで急がなければならないんだ。次回会ったときにまた仲謀に教えを乞おうかな」
「いいよ……すごくいい」
 孫権は言い出してから、自分でも恥ずかしくなって顔を赤くした。あわてて袖を顔にあてがい、立って揖礼して、お別れの挨拶をした。

 周瑜は馬に乗り、駅宿へ向かった。走りながら細かく吟味していた。
「愛に困ることになる?鉄石の心のごとし?ふ、逆でもおもしろい」
 側に居た随従が口を挟んだ。
「公子、これは愛情ひとすじで、心は磐石のように動かないということでは」
「そうか?」
 周瑜は口の端にほんのり甘い微笑みを浮かべて、その随従に言った。
「この次は仲謀に伯符も観てもらおう。伯符が磐石の心の持ち主か」
「公子、わたしが思うに孫校尉はタラシの顔です。決して公子ひとすじではありません」
「バカをいえ」
 周瑜は小さく笑って馬にひと鞭くれて走った。

よちよち漢語 四十二 需要愛先生「思為双飛燕」

二十章 射虎 虎を射る

 孫権は飛ぶように家に帰ったとき、頭の中ではわーわーとなっていた。
 しかし、抑揚に飛んだ感情はさっきのひどい怒りと信じられない状況とはまったく影響を及ぼしておらず、すばやく周家で起きた出来事の回想に繋がった。
 先程みたい二人の楽奴がいかにベタベタと、無作法な振る舞いをしていたとき、孫権は自分が以前思っていたのが間違いだと気づいた。大間違いだった。彼は思い出したくもないが、思い出さざるを得ず、その上、想像は飛ぶようにたくましくなった。元来男同士の□□はこのように隠秘で恥ずかしくて言えないことで、かくも驚きたまげるものだったとは……。
 それでは、自分が前に思っていたお兄ちゃんの孫策周瑜に成人の礼を指導するというのは、ほぼ間違いだ!
 細々と考えてみると、お兄ちゃんと周瑜の付き合いが浅からぬことはみんな知っていることだけれど、しかし、プライベートでの情のこもった親しみのほどは他人が知ることはなかった。そこで自分が二回偶然こっそりと出会して知ることができた。お兄ちゃんからは言及したことはない!自分が未熟だったとはいえ、お兄ちゃんの話から考えると、その実お兄ちゃんは周瑜を自分の婚姻外の相手としか位置づけていないようだ。
 これだけならまだしも、孫権が怒ることもできず、キレることもできず、泣きわめくことも、笑うこともできないのは、自分から周瑜のところへ泣いて訴えにいったことだった!
 泣くだけならまだしも、周瑜はいろいろと慰めてくれた。あの時は周瑜が嘘をついたので心中恥じてのことだと思っていた。今考え直すと、嘘などもとから存在しなかった。では、周瑜の慰めは、どうしたことか?
 細やかに考えを巡らせてみれば、賢さは絶頂の孫権の脳内に雷が一閃した。突然ぼうっと固まった。非婚関係の恋人、泣いて訴える、慰め、周瑜の話が耳元でまた蘇った。
『仲謀、まさか……その、あの少女は気に入らなかったのかい?』
『仲謀、きみ……ケガはないかい?』
『仲謀、勝敗は兵家の常。どうして輾転として眠れないことがあろう?』
 その瞬間、孫権は死さえも願った。周瑜、周公瑾、あぁ恨めしい。彼は孫権をベッドでの無能の輩だと思ったのだ、無能の輩だぞ!
 人生でこれ以上つらいことはないだろう。ある一人のずっと好きで憧れていた人に無能の輩だとおもわれることなんて!明らかなる自然の摂理、皎皎と天下のもとで、この冤罪を晴らすべきか!蒼天よ、今後わたし孫仲謀は周公瑾の目から見て永遠にベッドでの敗軍の将、こっそりと恥ずかしい病もちと思われるとでもいうのか?
 この考えは孫権の心を強烈な太陽の光で焼き尽くした。焼けて動悸がしてこころも痛んだ。どんな後悔、恥ずかしさ、恨み、怒り、どれも孫権のこの時の心情を表すには足りなかった。

 それから数日後、孫権はずっとぼうっとしすぎて、味もわからず、ぐっすりと眠ることすらできなかった。ちょうどそのころ、数人の若い友達が虎を狩りに遊びに誘った。孫権はよくよく考えずに、うんと言った。
 少年たち一行と山林に入っても、孫権は依然として心ここにあらずだった。予想外に運が良く、山に入ってまもなく一匹の額に斑がある虎に遭遇した。同行者には技の優れた射手がおり、一矢で虎の首を射た。このとき孫権はようやく意識がはっきりしてきたところだった。矢をつがえて、まさに放とうとしたとき、意外なことにこの凶悪な虎が矢に当たり、よろよろと数歩歩いてバタンと倒れたのを目撃した。このような巨大な虎が、たった一矢で倒れるとは珍しい話と言わざるを得ない。
 孫権は訝しんだ。しかし、その射手は非常に得意に話し始めた。
「みなさま、この我が家の秘伝の薬はいかがですか?これは強い毒薬ではありません。あの虎はまだ生きています。ただ気絶しているだけなのです」
 人々は口々に絶賛したが、猛獣の虎には近づこうとしなかった。その射手はみなの肝が小さいと揶揄い、自分でもう一矢つがえて、虎に二本目を射て補った。それから随従を呼んでその虎をがっちりと縛り上げ、椛の木の檻に閉じ込めた。孫権は一連の出来事をよく見ていた。その虎の息はちゃんとしていて、やはり気絶しているだけだった。なんともまぁ珍しい。
「貴兄はなぜこの虎を射殺してしまわないのですか?」
 孫権は謎に思って聞いた。
「仲謀兄は虎を馴らす術があるのを知りませんか?わたしの屋敷に新しく来たもので虎を馴らすことができる奇人がおりまして、わたしは彼にこの虎を与えようと思っています」
「そういうことでしたか」
「山林の王も、今見るとただの大きい猫みたいですね。眠ってしまって人の手のままに操られる」
 射手は笑った。
 眠ってしまって人の手のままに操られる?孫権は内心ドキッとした。数日固まっていた脳内がたちまち回転した。
 なんとも珍しい!もし公瑾がこの薬で眠ってしまったら、この大きい猫みたいに人の手のままに操られるのではないだろうか?そのとき自分は冤罪をはらすことができ、周公瑾に孫仲謀は平々凡々の輩ではないとわからせるのではないか、フンフン。
 この考えがちょっと浮かんでから、孫権は己にびっくりした。自分はいったいなにを考えている?!びっくりして全身に冷や汗をかき、孫権は深く反省した。こんな恥知らずの考えは口に出すことはおろか、もしバレてしまったら、お兄ちゃんの孫策に知られて、たぶん自分は皮を二枚剥がれるんじゃないのか?その上、周瑜は普段は見るからに温和だけれど、行動や発言は大いに果断で、ただの善良な人ではない。
 家に帰って、孫権は悶々とベッドに横たわり、しばらく悩んだあとに、やっと寝付いた。
 意外にも夜中に窓を叩く者が現れた。孫権は誰だと尋ねた。窓の外から昼間の虎を射た者の声がした。その声が言うに、
「仲謀兄、きみが薬つきの矢が欲しいなら、わたしがきみにあげよう。窓の外に置くから、仲謀兄がとればいい」
 孫権はすぐに身を起こしてベッドから降りた。窓を押し開けて見ると、月が耀く夜で人影は見えず、地面には数本の薬の矢がちゃんと揃っていた。
 虎を射た矢よりとても小さく作られていた。その他に一本の吹管があった。孫権はその吹管をもつと出かけて、薬つきの矢を入れて一度試してみた。矢は静に正確に木に当たった。
 孫権は心から大喜びし、急いでその吹管と矢を持って厩へいき、飛び乗ると瞬く間に周家の門外までやって来ていた。このとき明けの明星が出る頃で、周家の門は広く開け放たれていた。周瑜がいつも着ている紫色の袍を羽織り門から出てくるのが見えた。ふらふらと孫権の埋伏する木陰に向かってきた。孫権の心は激しく荒れ狂った。周瑜が一歩一歩こちらにむかってくるのを見て、こっそりと天の助けだと思った。
 周瑜がより近くなるのを待って
孫権はあの吹管をを取り出して、一発必中、周瑜はあっと倒れた。孫権は飛びだしてきて天を仰いで大笑いした。
周瑜、あなたはついにわたしの手に落ちた。はははは!」
 思い切り笑っていると、周瑜が口を開いた。
「権児、あなたはなにを笑っているの?」
 孫権は驚いてずっこけそうになった。周瑜の声がどうして変わったのか?変わった……うちのお母さんみたいな?
「権児、あなたは何の夢を見て、こんなに笑っていたの?」
 孫権はぼんやりとして両眼を開けると、呉夫人が自分の目の前に座っていた。孫権の腕に手を伸ばして揺り動かしていた。
「……お母さん?」
 孫権は深呼吸してみると、呉夫人に間違いなくて、周りをみれば、自分は布団を被ってベッドによこたわっていた。やはり黄粱之一夢か……。
 孫権は顔を戻して額を叩いた。
「あ!」
「権児、権児?」
「お母さん、なんでもないよ。ぼくはただ……」
 孫権は無理やり微笑んで見せた。
「おいしいものを食べる夢だったんだ」
「ええ」
 呉夫人も無理やり笑った。
「もう日が高いわよ、起きなさい」
 孫権はごそごそと起き出した。
 まもなく呉夫人は孫権の寝室を出て行くと、自分の部屋の中で長いことぽかんとしていた。さっき自分が部屋に入って孫権を起こそうとしたときはっきり聞こえた。はっきり見えた。夢見ている孫権の顔には止められない笑いが浮かび、ひどく激しく叫んでいたり二文字『周瑜……』
 まさか、まさか……?!
 このとき呉夫人は孫権を周家に半年も遊学したのを送り出したことに思い至り、とても深く後悔した。

よちよち漢語 四十一 需要愛先生「思為双飛燕」

十九章 情誤 情の誤り(下)
*ベッドと訳しておりますが、長椅子兼ベッドみたいなものと想像してください。

 翌日の夕方、孫権は呉良の家に招かれた。呉良は早々に部屋のベッドにひとつ机を用意して、客と主人が別れて両脇に座れるようにし、楽しくおしゃべりをした。
 にわかに呉良が突然言った。
「わたしは何日か前に二人の容貌容姿ともに美しい楽奴を買いました。呼んで来て、我ら二人の興を添えてはどうでしょう?」
 楽奴?孫権は内心呉良は貴族のお坊ちゃんの習性があるな、呉家は屋敷もそんなに広くないのに、楽奴を養うとは、と思った。
 しかし、厚意は断りがたく、孫権はうんうんと頷いた。
 呉良は微笑んで手を叩くと、外から十五、六の少年が入ってきた。両人とも少し背丈は低く、同年齢の少年と比べて明らかに痩せていた。しかしながら、目鼻立ちはすっきりとして、肌は雪のように白く、目の保養となった。左の少年は琴を捧げもち、右の少年は簫を持っている。二人は準備された席に落ち着くと、それぞれ楽を奏で始めた。
 まもなく、孫権は眉をややひそめた。呉良がすぐさま尋ねる。
「仲謀はこの曲は好きではないのかい?」
 孫権はひそかにこの技術のひどさに少しうんざりした。彼は周家でいつも周瑜が琴を奏でるのを聴いていたので、薫陶もすでに長く、二人の楽奴の奏でる曲はまったくめちゃくちゃで、優雅さも何もないと感じた。孫権はかすかに眉を上げて、首を傾げた。
「あーそんなことはないけど」
 けれど気持ちはもう軽んじている風に出ていた。
「あぁ、それじゃあ彼らに別の曲を演奏させよう」
 呉良は手で止めさせると、二人の少年は楽器を下ろした。
「仲謀、彼らに別の曲目に換えさせてはどうだろう?」
 曲を換えても同じくめちゃくちゃなのでは?孫権は二人を斜めに一瞥して可も無く不可も無く言う。
「呉兄のご随意にどうぞ」
 呉良はこっそり喜んだ。二人の少年のほうに目配せした。二人は了承して、ベッドの前に進み、帯を解き、衣を緩め始めた。
「へっ?」
 孫権は驚き固まった。
「彼らはいったい何をしているんだ」
「仲謀、きみは見ていればわかる、わたしは無駄ではないと保証するよ」
 呉良の声は不明瞭になっていた。
 目をやれば、二人の少年は前触れもなく抱き合ってキスをしている。
「あ?!」
 孫権は目を丸くし口もぽかんと開けたままになった。
「仲謀、これが君の言うところの純粋でさっぱりとした男同士の関係の愛だ。きみは好きだろうか?」
「あ!」
 孫権は言葉につまり、話ができなくなった。
 二人の少年はキスしながら互いに最後の下着を剥ぎ取り始めた。
「こ、これはやり過ぎじゃないのか?」
 孫権はこの時にはもうこの場面に震え驚き座っていられなかった。呉良は非常に豪放だ!男子の愛は純真でさっぱりとしているとはいえ、他人の前でこのようにやってみせるべきではないだろう。 
 でも、孫権は自分が袖を払って立ち去り、この混乱した部屋には居たくはないと思いつつ、一方で我慢できずに目の前の様子に引きつけられた。二人の少年との距離は近く、そのなまめかしさがあふれる表情や、どうしようもなく放らつな動作、あれこれともつれ合う様子はみな露わにされている。小さい頃こっそり遠くから見たお兄ちゃんと公瑾の時よりもっとはっきりとしている。
 孫権少年は顔が熱くなり、心臓は激しく脈打ち、側の呉良が机をどけて、自分の側に座ったことにきづかなかった。呉良は手を伸ばし孫権の腕に絡めようと思っていた。
 孫権は急に顔色が変わり、呉良はギクッと驚いた。いつもは申し分ない玉のような美少年が、突然顔色を青や白に変え始めて、目玉も飛びだしてきた。その凶悪な様子は恐るべきものである。
 呉良は大いに驚き、顔をベッドの前に向けると、二人の少年はだんだん佳境に入っているところだった。片方が犬のように四つん這いになり、もう一人がその後ろであれやこれやと可愛がり始めた。次第に後庭も拡張され、二人はハアハアと喘いでいた。甘えた鳴き声や淫らな言葉が耳に絶えなかった。
「弟者よ準備はいいか?」
「兄者よ、ちょうだい、もうむず痒くて耐えられない」
 これは二人の思いが厚いのではなくて、汗だくの欲望ではないのか?何も正しくないことはないよなぁ。呉良はわからぬまま振りかえると、またびっくりした。見れば孫権がベッドの上に立ち上がり、見下ろしていた。両眼は丸く見開かれ、顔色は惨白で、全身がぶるぶると震えていて、秋の風に吹かれる一片の木の葉のようだった。
「仲謀?仲謀どうしたんだい?」
 呉良はただ事ではないと驚いた。
 しかし、かれはその後またさらに驚いた。孫権が急に腰の長剣を抜き出したのだ。ベッドの前の二人の少年に向かって、耳をつんざくような大声で吼えた。
「おまえたち、なにをしている?説明しろ!」
「こ、これは普通の男同士の愛し方だよ。仲謀どうしたのだ?」
「ちがう!ちがう!」
 孫権は続けて大声で吼えた。剣先は床に立つ少年の股間の物に向けられた。
 依然猛り狂い、
「おまえは嘘つきで恥知らずだ!ふざけている!おまえはどこに突っ込もうとしている?!」
と叫んだ。
 その少年はどこもふざけてはおらず、すぐにびっくりしてその気も萎えた。きらきらとした恐ろしい剣の光を向けられしかも自分の大事な部分を指されて、驚きで息もできなかった。我知らず泣きながら目の前にいる少年の後庭を指差した。
「ここ、ここです」
「そこは房事をするところではない。おまえは嘘つきだ!」
 孫権はすっかり怒り狂ってしまった。その少年、その少年はなんと男女の間の事を男子に対して行おうとして、不潔極まりないところに入れようとしている。本当に頭がおかしい!本当のことじゃない!きっと本当のことじゃない!
「わたし、わたしは嘘はついていません、うー……」
 立っている少年は大声で泣き始め、呉良の元へ飛び込んだ。
「わたしを殺そうとしています。ご主人様お助けを……!」
 呉良は混乱して取り乱している孫権の袖を引っ張った。
「仲謀驚くなかれ。きみが見物するのがいやなら、彼らを下がらせるよ」
 ガチャンと音がして、長剣が床に落ちた。ベットの上の孫権はぐらぐらとふらついていた。ぼーっと上げた顔には一滴の涙が曲がりくねりながら無表情の頬を伝い流れていた。
 呉良は予想だにせず孫権が楽奴の房事を見て一滴の涙を流すのを目撃した。一瞬ぼんやりとしたが、二人に下がるように手で合図した。二人は孫権の驚くべき気勢に圧されて逃げ出したかった。主人の合図を見るなり、衣服も整えずに、転がるように這い、飛ぶような速さで逃げ出した。
「えーと……」
 呉良は何を言ったらいいのかわからず、言いかけてやめた。
 孫権は突然腕を上げて呉良に手を振り、話を止めた。まじめな顔をして、ゆっくりと自分の宝剣を拾い上げ、震えながら剣鞘に戻そうとした。手が震えて何度も挿そうとしても、剣先はぜんぜん鞘に入らず、最後にやっとの事で収まった。
「余計なことは言うな」
 孫権は脚を上げて、ベッドから降りた。
 無表情の顔で、
「失礼する!」
と言い、一路顔を上げ、胸を張り、頬には涙がまだ残っていた。大股で振り返りもせずに呉家の屋敷を出て行った。

よちよち漢語 四十 需要愛先生 「思為双飛燕」

十八章 情誤 情の誤り(中)

 それから数日間、孫権周瑜が自分に対してとても優しく付き合って相手にしてくれているのを感じた。どこにでも連れて行ってくれたし、常に親密な関係だった。たとえば、肩を抱き寄せたりしたり。孫権は満足までしてはいなかったが、なにも無いよりはましである。
 このようにとても楽しい日々は過ぎてゆき、半月後、孫権は呉夫人からの手紙を受け取った。驚き、時間をかけて意識を取り戻した。呉夫人は手紙の中でいうには、孫権は周家の屋敷にてお世話になることすでに半年である。そろそろ戻るべき頃ですよ。孫権の心の中では極めて離れがたかったが、母の命令には逆らいがたく、その上ずっと周家にいられる立場でもなかった。
 周瑜に暇乞いをするときには、孫権は顔色が暗く沈んでいた。周瑜孫権を励まし、父の遺志を継いで功業をうち建てようと話した。孫権は意気消沈した様で聞いていた。その後で顔を上げて尋ねた。
「公瑾、まだなにかぼくに話すことはないの?」
「あっ、わたしの代わりに義母上によろしくお伝えしてくれ」
「わかった。ぼくたちいつ再会できるかな?」
 周瑜は微笑んだ。
「仲謀、後日わたしときみのお兄ちゃんが肩を並べて戦場を駆け巡るとき、それがわたしたちの再会の日となるだろう」
「え、あなたは現在でも寿春の袁術に身を寄せることもできるんじゃ…」
 孫権はドキッとした。
「今はまだ、わたしは動くことはできないんだよ」
「じゃあ、きっときてよね」
 孫権はちょっと焦った。
「安心してくれ。わたしが話すことには、かならず見通しが立っているんだ」
 周瑜は力強く孫権の肩を叩いた。
 孫権はしばし黙り込んだ。
「思ったんだ。ぼくもあなたにはお別れの礼を求めないって。でも、公瑾、あなたはぼくに成人の礼をしなかったことを忘れないでね」
「……」
 周瑜は内心孫策のしょうも無い考えは家族にまで行き渡り、現在孫権は初夜で失敗したことで完全に頭にきている。別なことならともかく、こういうことをどうやって補償するというのだ!周瑜は決まり悪げに曖昧に対応した。
 三日後、孫権周瑜と別れ曲阿に戻った。家に帰ってからは、孫権孫策周瑜と同様に、郡のあちこちの県の出身者と広く交友をもった。さまざまに親交を結んだ。そこで、彼は少年として成長し、応対も機敏で一時的にちょっと有名になった。
 自分の人づき合いが苦手な性格を克服するために、お兄ちゃんと周瑜を見習った。孫権はなかでも同年齢の付き合いに注意した。同窓生に仲間はずれにされた過去とは永遠にお別れした。一時は、曲阿に住む士族の子弟で、孫権と付き合いのある者は、百余りと増えた。孫策は里帰りの際に、孫権の性格が前よりも快活になっているのを見て喜んだ。
 交際が広がったことにより、変わっている人達も孫権の前に多く現れてきた。おじさんの呉景の遠縁で呉良*というものがいた。孫権と友達になって半年ぐらいである。この時の孫権は背格好もだんだん増えて、目元も少しずつ子どもらしさから脱却していて、本当の少年らしい姿を備え始めていた。孫権より四歳年長の呉良はいつも孫権の容姿を格好いい、普通とはちがっていると褒めていた。孫権は笑って答えながら、そうは納得していなかった。もともと孫権は幼いときから見たり聞いたりしていて、人々がいかにうちのお兄ちゃんや公瑾お兄ちゃんのことをおおげさに褒め称えるのか知っている。そのような褒め言葉はもはや耳に何層も胝ができるほどだった。呉良の褒め言葉を、孫権が聞いていて、聞き流している。
 しかし呉良は孫権が自分の褒めそやすのをこのように受け取っているのを見て、ますます他の人とは違うと思うようになった。呉良はあるとき孫権に人に俗っ気を吹き飛ばす、または玉のような容貌で天人の姿だと言った。孫権は内心では冗談でもちょっとおかしいなと思ったが、深くは考えなかった。呉良は喜びを抑えきれずに、眼で一歩一歩探っていた。孫権がO.K.してきたら、かねての宿願が叶うかどうか。
 もともと、この呉良というものは素より断袖の癖があり、曲阿に来て孫権に出逢ってから日夜忘れられなかった。ただ、孫権の性格は良くて親友となることができた。本当に近づきになれた後、孫権という人は外側は熱く、内側は冷めていると発見した。親しく近すぎるのは良くないかもしれない。いわんや断袖のことは、もし相手にその気がなければ、自分は言ったが最後拒絶されてしまう。今、孫権に対する自分のからかいの言葉は明らかに受け取られたに違いなく、呉良は思わず気持ちがウキウキしてきた。
 呉良の知らないところで、孫権少年はいかに人と親しくなっていけばよいのか実際よくしらなかった。彼は広く友人を欲しかったけれど、友人同士の親しさの加減はどうやって調節、配分するのかは、まったくぼんやりとしていた。また、彼は孫策のようなお祭り騒ぎの性格でもなかったので、まじめまじめに真似て振る舞っていた。ちっぽけな名声を得て、才能を付き合いや言葉の応酬の上で試していた。その上、幼く経験が無かった。それゆえに呉良に対して行き過ぎた親しさで近づいてしまった。孫権にはまだ警戒する気持ちがなかった。
 ある日、呉良は最後の手探りを試してみようとした。宴席の最後、孫権を郊外の野原の散歩に連れていった。なんでもないふりで、曲阿の地元の二人の少年を話題にした。その二人は地元の噂では龍陽のよしみだと言われていた。呉良は一歩退いた振りをして、言葉に軽蔑の気持ちを表した。それから、孫権がどんな反応をするのか細かく観察した。
 孫権は聞くなり、顔に面白くない気持ちを出していた。袖を払って言う。その言葉は誤りだ。また言う。二人の男子は互いに思い慕い合っていて、恩義を報い合い、なんの不都合があるのか?最後に孫権はさらに言う。ぼくがみるに、男子の間の親密な関係は男女の間と比べてもっと純真でよりあっさりとしたものだ。世間の人はデタラメを言っている。小人の心で君子の腹を図る…邪推というものだ。
 呉良は孫権のご高論一番を聞くと、思わず驚きほうけた。以前会った孫権は、ひとりの聡明な少年にすぎなかった。今の彼の発言を聞くと、天人のようだと驚いた。呉良は自分が断袖だと気づいてから、常にこの癖でこの世に受け入れられないと思い、深く苦悩していた。どうして孫権のようにきっぱりと、男子の間の親密な関係は男女の間と比べてもっと純真でよりあっさりとしたものだ、と言い切れるだろう。このことはまっすぐと心に大きく響いた。古今を震撼させるほどに!
 呉良は感動して孫権の手を握った。喉がつかえて言葉が出ず、しばらくしてやっと言えた。
「このバカ兄は数歳上ですが、弟殿と相い比べてまったく米粒の玉と白い月、霜枯れの葉と春の花のごとくかけ離れている。仲謀は奇才だ。奇才だあ」
 孫権は快く言った。
「つまらない議論を述べたのみ。呉兄どうしてそんなに興奮しているのですか」
 呉良は俯いていた頭を上げた。孫権の眼をじっと見て一字一句はっきりと言った。
「仲謀、明日の晩、兄の家にちょっと遊びに来ないか?」
「明日の晩は何も用事はないよ。ぼくも呉兄とちょうど話したかったところだ」
 孫権はさらりと答えた。 

*呉良 需要愛先生オリジナルキャラクター、無良と音が同じことから命名

よちよち漢語 三十九 需要愛先生「思為双飛燕」

十七章 情誤(上) 情の誤り(上)

 昼まるまる寝ていた孫権は本当は眠気など無く、壁に向かって縮こまっていた。頭の中では立った今の一幕が思い返され、こっそりと涙が思わずこぼれた。
 あの少女はいくらかか器量よしではあったけれど、孫権からしてみれば村娘と変わりなく、関係を持ちたいとは思わなかった。
 しかし、彼女がしきりと周のだんな様のお申しつけなのだと言うので、実行しないわけにはいかなかった。孫権は最後には受け入れた。今考えてみると、周瑜はあのような劣ったろくでなしを宛がえば十分だと考えていて、孫権はますます自分の才能や聡明さが無駄になったと感じた。周瑜には欺かれてばかりで長い間真意が見破れなかった。
 しかし、この時の孫権の心の内は怒りと苦悩でいっぱいだったけれど、他の一大事に彼の注意力の大部分が注がれた。もともと孫権は先に白い絹本で男女の事を論じているのを読んでいた。さきほど実戦してみて、彼は知ることができた。
 ただし、孫権はひとつの問題に気づいた。周瑜と自分は同じく、男だ!
 もちろん以前にも周瑜が男であることは知らないわけではなかったが、孫権は房事上のことで枝葉末節にいたるまでは考えたこともなかった。今日あの少女と経験したあと、ちび孫権は突如として目覚めた、性欲のことで、男女が相和すのは不変の道理で、自然のことにできている。
 しかし、男同士のことは初めから無理があるのではないのか?
 お兄ちゃんと周瑜はあの最中になぜ愉しんでいるのか?孫権はいろいろ考えて、ついにわかった。なるほど彼らはただしているふりなのだ!だいたい言うならば……自瀆?その中身も互いに撫でさすったり、ぎゅっと抱きしめたりするだけ。自分はあれ以来ずっとお兄ちゃんを悪者扱いにしてきたけれど、これは何の淫らなことでもなかった。男同士のことは男女のことよりずっと単純なことのようだった。
 そう思うと、孫権は一時的に少し怒りも収まった。そんなわけで、さきほど周瑜が自分の肩を抱きしめてきたのは、とても親しげだった。お兄ちゃんのほうがやや親しみが多いだけのことだ。
 あれやこれや考えていたあと、孫権は耳元で周瑜のリズムの整った小さな呼吸音が聞こえた。周瑜はすでに孫権の後ろで眠っていた。心配事がやや落ち着いた孫権は寝返りを打った。すでに暗闇に慣れた眼は、周瑜が自分の側で安心して横たわっているのが見えた。顔の輪郭は暗闇と同化して一体化していた。身体のラインはとても柔らかで、いつもは孫権がちょっと見つめられない、桃の花のような眼は閉じられ曖昧な弧を描いていた。睫毛は濃密で伏せられ、鼻はつんと立ち、薄い唇はこのときはやや上に持ち上がっていた。まるで夢の中で何かいいことを夢見ているようだ。
 やっぱりいいなぁ、と孫権は感慨を覚えた。公瑾お兄ちゃんは眠っていてもあの村娘より風格が違う。心の中で突然ちょっとドキリとした。
 ややもして、言い知れない気持ちを抱いて、孫権周瑜の身体へと手を伸ばした。手のひらからは薄い中衣を通して温かい身体が微動するのを感じられた。孫権は驚いてすぐに腕を引っ込めた。目をこらして見てみると、周瑜はまだ眠っていた。そこでつづけて大胆に手を伸ばした。周瑜の腰にふれた。しばらく待ち、変化がないのを見て、孫権はついに自分の身体もずらした。またちょっと動き、さらにずらして、二人の間の距離は手のひらぐらいにまで近づいた。どこからか勇気を出して、孫権は前に転がり、貼り付いた。
 自分の腕は周瑜の腰回りに絡まり、ぎゅっと抱きしめているのと同じ姿勢で、二人は一つにぴったりとくっついていた。手をちょっと動かして、そっと周瑜の腰の滑らかな線を少しなぞってみた。
 孫権の心臓は太鼓のように激しく脈打っていた。こう撫でて、こう抱きしめて、自分もお兄ちゃんと同じく、周瑜と親しい関係になったのだ。全身細かく震えた。その震えは興奮を表していた。また、無意識的にくっついている相手への衝動も引き起こした。
 周瑜は本当はもう起きていて、孫権が身体にくっついた瞬間には目が覚めていた。けれど、目を開けずに、眠ったふりを続けた。孫権が自分の懐に倒れ込んで来たときにはひどく驚かされた。とても驚いたが、周瑜孫権が震えているのに気づいて、彼を責めることはしないと決めた。しかし、孫仲謀はいつも幼くして聡明なのに、うまくいかないこともあるのだと思った。
 震えが収まって、孫権はやっとおちついた。目線はあちこちと動き、周瑜の緩んだ襟から、身体の細かい凹凸に従って、脳内では自分が考えているのかもはっきりしなかった。じっと見つめることしばし後、突然抑えきれずに手を周瑜の襟に伸ばして引っ張った。ただし周瑜の首筋に触れて止まった。止まった瞬間顔色がちょっと青ざめた。
 周瑜はもう眼を見開いていた。にっこりと笑って見つめていた。
「仲謀、勝敗は兵家の常。どうして輾転として眠れないのかな?」
 勝敗?ああそうだ、周瑜の手に負けた。騙された。今もやっぱりぼくを揶揄って。孫権は腕を引っ込めて、嘆き、そっぽを向いた。
 この子は悲しんでいる。周瑜は咳をひとつした。心の中で考えた。これ以上彼の傷口を抉るまい。みたところ仲謀は彼の兄より自尊心がかなり強いようだ。ちょっと揶揄うこともできない。
「ぼくは昼に寝すぎたから、今眠れないんだ」
 孫権は遅れて打ちやるように答えた。
「んっ?それならいい。わたしも眠れないんだ」
 周瑜は身を起こして微笑んだ。
「一局勝負するのはどうだろう?」
「いいよ」
 孫権もすぐ身を起こした。孫権はまだ周瑜と対局したことがなかった。
 周瑜はまた腕を伸ばして、孫権に温かい抱擁をしてあげた。孫権は心の中では嘘つきはやっぱり気がとがめたりしないものだと思っていた。一方周瑜はやっぱり子どもで、少しは元気になったのかなと思った。
 二人は改めて灯明を灯して、机の側に座り、対局を始めた。黙々と対局し、終始ずっと無言でいた。

よちよち漢語 三十八 需要愛先生「思為双飛燕」

 一時間ほどして、赤い衣の少女は部屋から走り出てきた。口では文句を言いながら、あの男の子はとってもおかしい、明らかにわたしは頑張ったし、あの子だって気持ちよくなれた。それなのにわたしのことをつかんで、周のだんな様はいつ来るのか聞いてくるばかり。だんな様がその場で確かめないとならないとでも?まさかわたしのお手当ても認められない?そう思ったら、すぐさまに風のように素早く帳場まで走り、家令にお手当ての支払いを求めて去って行った。
 部屋の中では、服が乱れたままの孫権が一時間ほどベッドで座って待っていた。ついには我慢できず、上着を羽織って飛び出ていった。屋敷の家僕と会い、孫権は怒りも露わに「公瑾お兄ちゃんは?」と尋ねた。家僕は「だんな様はまだ書房にいます」と答えた。孫権は聞くやいなや書房に突っ込んで行った。ノックもせずに戸をひと思いに押し開けた。
 書房の中では、周瑜はベッドによりかかり、灯明を灯して読書をしていた。目を上げて孫権がザンバラ髪で飛び込んできたのを目撃した。
「仲謀、きみ……」
 周瑜は上から下までさっと見回し、孫権のめちやくちゃな下着の乱れぶり、中衣も崩れ、頭髪は完全に解けて肩に落ちていた。まさかあの少女はきっちりやり遂げてくれなかったのか?周瑜は眉をひそめた。
 孫権の目の縁はこの時すでに赤くなっていた。
「あ、あなたはまだここで読書なんかして!」
「えっ」
 周瑜は本当にいったい何から話せばいいのかもわからず、孫権にばつの悪い微笑みを向けるしかなかった。
「ぼくは一時間も待った!」
 孫権は怒り、涙も流し始めた。
 周瑜はしばし時間をかけて考え、とつぜんはたと思い至った。そうだ。孫権にしてみれば、初めてのことなのだ。そして、この屋敷うちでは自分はなんといっても一番身近な人生の先輩である。彼はこの時おおよそ気持ちがちょっと昂っているのだ。嬉しさを分かち合うまたは……不満をぶつける?必要がある。
「仲謀、まさか……えー、あの女の子は気に入らなかった?」
「あなたは自分で来るって言ったのに、うそつき……」
 孫権は泣き、ひどく傷ついた。泣きながら訴えた。唇はへの字にまがり、この瞬間、自分は天下で一番の大馬鹿だと思った。周瑜にこんなに手ひどくだまされるなんて。
「わたしは思いもよらなかったよ……」
 周瑜孫権が振り乱して泣くさまを見て、話を続けることもできなかった。もともと周瑜は人を笑わせたり慰めたりするのが得意な方ではなく、この時はただ無言で孫権の側に寄り、孫権の頭を撫でて、小さな子どもにするみたいに手の甲で流れ続ける涙を拭いてやった。周瑜は見ていておかしくもあり、かわいそうにも思い、腕を伸ばして孫権の肩を抱きしめた。
「うーうーうー………」
 孫権は悔しさでいっぱいになりながら周瑜の懐にもたれかかった。
 周瑜はしばらく慎重に考えてから言った。
「仲謀、きみ……ケガはしなかった?」
「そんなのないよう、うーうー……」
「なら良かった。そうでなければいったいどうやってきみのお兄ちゃんに言い訳したらよいものやら」
 周瑜孫権の泣くさまに思考も千々に乱れた。ただただ孫権の背中を軽く叩き続けても慰めた。
「よくもまぁお兄ちゃんに言い訳とかまだ言ってる!うーうー……」
「これはわたしが悪かった」
 周瑜はなすすべがなかった。
「じゃあ、日をあらためてもっといいこを探そうか……?」
「いらない!」
 孫権の泣き方はさらに激しくなった。
「あなたは他人を押しつけるつもり?ぼくは要らない!」
 周瑜は無言で応じた。ひたすら照れくさそうに言う。
「そういうなら、ごほん、きみのお兄ちゃんの考えは本当につまらないものだった」
「つ、つまらない考え?あ、あなたは後悔していないの?」
 孫権は怒りで周瑜の手を打ち払った。くるりと外に向かおうとした。周瑜が慌てて引き止めた。
「仲謀、待って」
「いまさら何を待てだよ。ぼくはあなたを恨むよ!寿春に帰りたい!」
 孫権は怒りで頭がぼうっとしてきた。もはや気にかけられることもなく、吐け口さえも完全に遮断されて無い。
 これを聞いて周瑜はなおさら彼が行くのを止めた。もし、孫権がこのまま逃げ帰って孫策に泣いて訴えたら、なおのこと返せない。孫権の手を引いて言う。
「仲謀、話があるならわたしが聞こう。他人扱いしないでくれ。わたしが思うに、解決できないなんてことはない……」
「いらない」
 孫権はだんだん泣き声が落ち着いてきた。
「あなたはひとことで、あなたが傷つけた心を取り戻せると思っているのぼくはあなたの手助けなんていらない自分で寿春に帰る道筋くらい知っているもの」
 孫権のこんなに頑固なさまを見て、周瑜は困り果てて焦った。不器用にあやすことしばし、孫権の表情もだんだんゆるんできた。このときすでに二更(午9時~11時)で、周瑜孫権を一人で部屋に帰すのに安心できなかった。本当にこっそりと寿春に帰ることを恐れたのである。ついに孫権も泣き疲れて、書房のベッドで眠るしかなかった。
 孫権は言う。「ぼくはあなたのことを許していないんだ。ぼくたちは互いの領分を侵さない」自分がもう周瑜に失望したこと、もう周瑜を求めていないことを示した。孫権はベッドにあがり、服を脱がずに中に横たわった。一人壁に向かって縮こまって塊となった。振り返って周瑜に言った。
「あなたは来ないで」
 周瑜はちょっと笑いたくなったが、笑うこともできず、上着を脱ぎ、中衣でベッドに横たわった。手を伸ばして布団の隅を引っ張って孫権に被せた。二人はやっと仲良く灯りを消して眠ることができた。